住宅資金特別条項はどのような場合に利用できるか?
個人再生には,住宅ローンの残っている自宅を維持したままで借金を整理できる「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という特別な制度が用意されています。
もっとも,この住宅資金特別条項を利用するためには,当然のことながら,いくつかの法律上の条件を満たしていなければなりません。
このページでは,この住宅資金特別条項(住宅ローン特則)はどのような場合に利用できるのか(住宅資金特別条項の要件)について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
個人再生の住宅資金特別条項の要件
(著者:弁護士 志賀 貴 )
※東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所における個人再生の実績・経験やお取り扱いについては個人再生申立ての経験豊富な弁護士をお探しの方へをご参照ください。
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)
個人再生(個人民事再生)には,最も特徴的な制度として,「住宅資金特別条項(住宅ローン特則」という制度が設けられています。
住宅資金特別条項とは,住宅ローンは通常どおりまたは若干変更して支払い自宅を残したまま,住宅ローン以外の債務を個人再生によって減額・分割払いにすることで整理できるという制度です。
住宅ローンが設定されている自宅は,自己破産の場合であれば,担保権者による競売や任意売却などによって処分することになりますが,住宅資金特別条項を利用できれば,自宅を残すことができます。
実際,個人再生を利用する方の多くが,この住宅資金特別条項を利用しています。住宅資金特別条項は,小規模個人再生の場合でも,給与所得者等再生の場合でも利用することができます。
もっとも,住宅資金特別条項は,住宅ローンだけ通常に近い形で支払いつつ,自宅不動産という大きな財産を残しておけるという非常に債務者に有利な制度です。その分,その利用条件(要件)は易しくはありません。
>> 住宅資金特別条項のQ&A
適用対象となる「住宅」であること
個人再生の住宅資金特別条項といっても,どのような住宅にでも適用できるわけではありません。住宅資金特別条項の対象となるのは,民亊再生法196条1号の「住宅」とその「住宅の敷地」です。
民亊再生法196条1号の住宅については,「個人である再生債務者が所有し,自己の居住の用に供する建物であって,その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。
ただし,当該建物が二以上ある場合には,これらの建物のうち,再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。」と規定されています。
すなわち,住宅資金特別条項の対象となる「住宅」というためには,以下の要件を満たしている建物でなければなりません。
- 個人再生債務者が所有する建物であること
- 自己の居住の用に供する建物であること
- 床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供される建物であること
- 上記の建物が複数ある場合には,それらの建物のうち,再生債務者が主として居住の用に供する建物であること
住宅資金特別条項の対象となるのは,再生債務者が所有している建物,つまり,再債務者の自宅です。単独所有だけでなく,共有の場合でも,再生債務者の持分があれば,所有する建物であるといえます。
また,住宅資金特別条項の対象となる住宅は,居住用建物でなければなりません。事業用の建物については,住宅資金特別条項を利用できません。
建物内に居住用スペースと事業用スペースの両方がある場合には,その建物の床面積の2分の1以上が居住用スペースでなければならないとされています。
この居住用建物が複数あるという場合には,そのうちで,再生債務者が主として利用している居住用建物1棟のみが住宅資金特別条項利用の対象となります。
複数全部に住宅資金特別条項が利用できるわけではないのです。
住宅資金貸付債権であること
住宅資金特別条項が適用されるのは「住宅資金貸付債権」です。
住宅資金貸付債権とは「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。」とされています(民事再生法196条3号)。
すなわち,住宅資金貸付債権というためには,以下の要件を満たした債権でなければなりません。
- 住宅の建設・購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)または住宅の改良に必要な資金の貸付け債権であること
- 分割払いの定めがあること
- 当該債権または当該債権に係る債務の保証を業とする保証会社の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
住宅資金貸付債権の典型は,いわゆる住宅を購入する際の銀行などの住宅ローンですが,そうでなくても,上記要件を満たす場合には,住宅資金貸付債権として住宅資金特別条項の利用は可能です。
住宅の新築・購入やその敷地の購入などだけでなく,住宅を増改築したり,バリアフリー化のための住宅改良工事費用の借入れなども,住宅資金貸付債権に該当します。
また,住宅ローンの借換えも住宅資金貸付債権に該当します。
ただし,もちろん,分割払いの定めがあるものに限られます。一括払いの貸付けは住宅資金貸付債権には当たりません。
また,これらの分割貸付け債権であっても,その住宅に,その債権(または保証会社の求償債権)を担保するための抵当権が設定されている場合でなければ,住宅資金貸付債権には当たりません。
したがって,抵当権が設定されていない住宅については,住宅資金特別条項は利用できないということです。
住宅ローン以外の担保権が設定されていないこと
前記のとおり,住宅資金特別条項が利用できるのは,住宅購入等の資金の貸付け債権(または保証会社の求償債権)を担保するための抵当権が,その住宅に設定されていることが必要です。
しかし,仮に,この抵当権が設定されていたとしても,その住宅について,住宅資金貸付債権以外の別の担保権が設定されている場合には,住宅資金特別条項を利用できないとされています(民事再生法198条1項ただし書き)。
したがって,住宅資金貸付債権でない債権,たとえば,事業者ローンや一般貸し付け債権の抵当権が別に設定されてしまっている場合には,住宅資金特別条項は利用できないのが原則ということになります。
また,抵当権等担保権は設定されていなくても,別除権行使等によって住宅を失う可能性のある場合には,担保権が設定されている場合と状況は同じであるため,やはり住宅資金特別条項の利用が難しくなることがあります。
例えば,マンション管理費を滞納している場合や税金を滞納している場合です。
これらの場合には,管理費滞納による先取特権の実行や,税金滞納による滞納処分の可能性があるため,住宅資金特別条項利用の障害となるのです。
保証会社の代位弁済と「巻戻し」
住宅ローンなどについては,保証会社による保証が付いているのが通常です。住宅ローンの支払いが滞った場合,保証会社が住宅ローン債権者に対して保証債務を履行(代位弁済)することになります。
代位弁済がなされると,債権者はその保証会社となり,分割払いの定めも効力を失います。したがって,住宅資金貸付債権ではなくなるため,原則論でいくと,もはや住宅資金特別条項は利用できないことになります。
もっとも,民亊再生法では,保証会社による住宅資金貸付債権全額の代位弁済の日から6か月以内に個人再生手続開始の申立てをした場合には,代位弁済がなかったものとしてみなされ,債権者も住宅資金貸付債権者に戻り,再び住宅資金特別条項の利用が可能になるという制度が用意されています。これを「巻戻し」と呼んでいます(民事再生法198条2項)。
住宅資金特別条項の要件まとめ
個人再生の住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の要件をまとめると,以下のとおりです。
- 個人再生(小規模個人再生または給与所得者等再生)の要件を満たしていること
- 対象となる住宅が,個人再生債務者が所有する建物であること
- その住宅が,自己の居住の用に供する建物であること
- その住宅の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供される建物であること
- 上記に該当する建物が複数ある場合には,それらの建物のうち,再生債務者が主として居住の用に供する建物であること
- 対象となる債権が,住宅の建設・購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)または住宅の改良に必要な資金の貸付け債権であること
- その債権について,分割払いの定めがあること
- その債権またはその債権に係る債務の保証を業とする保証会社の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
- 上記抵当権以外の担保権が住宅に設定されていないこと
- 保証会社による全額の代位弁済がされている場合には,その代位弁済日から6か月以内であること
住宅資金特別条項は個人再生の付随的な特別制度ですから,個人再生(小規模個人再生または給与所得者等再生)の要件を満たしていなければ,住宅資金特別条項はそもそも利用できません。
小規模個人再生または給与所得者等再生の要件に加えて,さらに上記らの各要件を満たしていなければ,住宅資金特別条項は利用できないのです。
住宅資金特別条項の要件に関連するページ
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の要件についてより詳しく知りたいという方がいらっしゃいましたら,以下のページもご参照ください。
- 個人再生の経験豊富な弁護士をお探しの方へ
- 弁護士による個人再生の無料相談のご案内
- LSC綜合法律事務所の個人再生の弁護士報酬・費用
- LSC綜合法律事務所における個人再生の解決事例
- 個人再生に関連する記事の一覧
- 個人再生で住宅ローンの残る自宅を維持する方法
- 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)のQ&A
- 小規模個人再生の要件
- 給与所得者等再生の要件
- 個人再生のメリット・デメリットのQ&A
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