交通後遺障害事故における逸失利益算定のための労働能力喪失率とは?
後遺障害逸失利益を算定するためには,その後遺障害によって,どの程度の割合で労働能力が失われてしまったのかということを数字で算出しておく必要があります。この割合のことを「労働能力喪失率」といいます。
ここでは,この後遺障害事故における逸失利益の算定における労働能力喪失率の問題について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
交通後遺障害事故における逸失利益算定のための労働能力喪失率とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
なお,弁護士によるご相談については,交通事故損害賠償請求の法律相談・ご依頼のページをご覧ください。
後遺障害逸失利益における労働能力喪失率
交通事故によって傷害を負った場合,その受傷の程度や内容によっては「治らない」という場合があります。いわゆる後遺障害(後遺症)が残ってしまうというケースです。
後遺障害が残るということは,基本的に,それが一生治癒しないということですから,被害者の方は,生涯,その後遺症に悩まされることになります。
単なる治癒の可能な傷害事故に比べ,その被害や苦痛は大きなものとなるのが当たり前です。
そのため,後遺障害事故の場合には,通常の傷害事故と異なり,休業損害だけでなく,将来の逸失利益を損害として賠償請求することが認められています。
後遺障害事故における逸失利益(後遺障害逸失利益)は,交通事故によって,得られるはずであった収入を得られなくなったという意味での損害ですから,いわゆる「消極損害」に当たる損害類型です。
この後遺障害逸失利益は,以下の計算式によって算出します。
- 後遺障害逸失利益 = 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数(またはホフマン係数)
後遺障害逸失利益は,後遺障害によって労働能力が失われたことを根拠にして,将来の収入の減少分を損害として認めるというものです。
そのため,どのくらい労働能力が喪失してのか,ということを算出しておかなければなりません。それが「労働能力喪失率」の問題なのです。
もっとも,損害賠償は金銭賠償です。つまり,損害をお金に換算する必要があります。
そして,お金に換算しなければならないということは,どのくらい労働能力を失ったのかということも,数値化しておかなければならないということです。
この「労働能力をどのくらい失ったのか」ということを数値化するものが「労働能力喪失率」です。
具体的には,交通事故前の後遺障害の無い状態を100パーセントとして,後遺障害によって労働能力が何パーセント減少したのということを割合的に算出することになります。
たとえば,労働能力喪失率60パーセントという場合には,交通事故前の後遺障害の無い状態からみて,60パーセント労働能力が低下した,ということをあらわしていることになります。
自賠責保険における後遺障害等級と労働能力喪失率
労働能力喪失率は,前記のとおり,割合的に数値化されることになります。問題は,その割合をどのように算出するのかということです。
自賠責保険の場合には,各後遺障害の内容によって「後遺障害等級」が定められており,それぞれの等級ごとに労働能力喪失率も決められています。
具体的には,自賠責保険支払基準別表第Ⅰ労働能力喪失率表に規定されています。
自賠責保険において後遺障害等級を認めてもらうためには,損害保険料算出機構によって後遺障害等級の認定してもらう必要があります。
そこで認定を受ければ,その等級に応じて労働能力喪失率も認められることになります。
自賠責保険において後遺障害等級が認定された場合,任意保険会社も,基本的にはこの認定および労働能力喪失率に従って保険金や損害賠償金を支払ってくれます。
なお,自賠責保険における後遺障害等級と労働能力喪失率表については,以下のページをご覧ください。
裁判における労働能力喪失率の判断
前記の自賠責保険においては,後遺障害等級認定制度が設けられており,これによって等級が認定されれば,支払基準に従って形式的に労働能力喪失率も決められるということになっています。
この仕組みは,自賠責保険の趣旨である最低限・早期の損害填補という点からすると望ましいことものであることは間違いありません。
しかし,その割合はあくまで政策的なものであり合理的根拠に疑問がある,形式的なものである以上個別具体的な事情が考慮されない,などといった問題点があることも事実です。
そのため,裁判の場合,裁判官はこの自賠責保険支払基準に拘束されずに,個別具体的に判断をして労働能力喪失率を認定することができると解されています(最二小判昭和42年11月10日,最二小判昭和48年11月16日等)。
したがって,裁判の場合には,仮に自賠責の後遺障害等級による労働能力喪失率よりも大きい割合の労働能力喪失率が認められることもありますし,また逆に,自賠責の後遺障害等級による労働能力喪失率よりも小さい割合の労働能力喪失率しか認められないこともあるということです。
自賠責での後遺障害等級認定の必要性
前記のとおり,裁判官は自賠責保険における後遺障害等級認定の労働能力喪失率に拘束されずに,個別具体的な事情を考慮して自ら労働能力喪失率を認定することができます。
しかし,実際には,訴訟においても,自賠責保険における後遺障害等級の労働能力喪失率が非常に重視されており,これに従った認定または若干の修正が加えられた認定がなされることが大半といってよいでしょう。
自賠責の後遺障害等級認定を経ないまま裁判上で後遺障害逸失利益を請求した場合,後遺障害等級認定をしてくるように裁判官から求められることすらあるくらいです。
そのため,後遺障害逸失利益を請求する場合には,訴訟をする予定であったとしても,やはり自賠責保険の後遺障害等級認定をしておいた方がよいでしょう。
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