交通死亡事故における逸失利益算定のための基礎収入とは?
交通事故によって死亡した場合「逸失利益」の賠償を請求することができます。
この死亡事故における逸失履歴(死亡逸失利益)の金額を算定するに際しては,その算定の基礎となる収入をいかに考えるかということが問題となる場合があります。
ここでは,この死亡事故における逸失利益の算定における基礎収入の問題について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
交通死亡逸失利益算定のための基礎収入とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
なお,弁護士によるご相談については,交通事故損害賠償請求の法律相談・ご依頼のページをご覧ください。
死亡事故における逸失利益
交通事故によって死亡したという場合,被害者の方はすべてを失うのですから,その被害は甚大です。
そのため,被害者の方(実際には相続人の方)は,加害者等に対して,交通事故によって死亡しなければ得られたはずの利益を損害として賠償を請求できます。これを「逸失利益」といいます。
死亡事故における逸失利益(死亡逸失利益)は,交通事故によって,得られるはずであった収入を得られなくなったという意味での損害ですから,いわゆる「消極損害」に当たる損害類型です。
死亡逸失利益は,以下の計算方法によって算出します。
- 死亡逸失利益 = 1年当たりの基礎収入 × (1-生活費控除率) × 稼働可能期間に対応するライプニッツ係数(またはホフマン係数)
この死亡逸失利益の計算において,まず問題となるのは,基礎収入をいくらにするのかということでしょう。
基礎収入とは,文字どおり,休業損害算定の基礎とすべき収入金額のことをいいます。しかし,この基礎収入をどのように捉えるべきかについては,以下に述べるような諸問題が生ずることがあります。
裁判における一般的な職業等の基礎収入
基礎収入をどのように捉えるのかという問題は,死亡逸失利益の場合だけに限った問題というわけではありません。休業損害の計算や後遺障害逸失利益の計算の場合にも同様の問題が生じます。
裁判において,一般的な職業等における基礎収入をどのように捉えるかについては,休業損害の場合とほとんど同様と考えてよいでしょう。
そこで,一般的な場合の基礎収入につきましては,お手数ですが,以下の休業損害における基礎収入のページをご参照ください。
裁判における死亡逸失利益特有の問題
以下では,休業損害における基礎収入と異なる,または休業損害の場合には問題とならない基礎収入に関わる問題点について,ご説明いたします。
幼児・児童・生徒・学生
幼児・児童・生徒・学生等は,休業損害の場合には,現実の収入がないため,原則として,基礎収入が認められないと解されています。
しかし,死亡逸失利益の場合には,基礎収入があるものとして逸失利益を認めるのが通常です。
この場合,基礎収入は,賃金センサスの第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・男女別全年齢平均の賃金額に基づいて算出されることになります。
ただし,死亡事故の場合には,当然のことながら,幼児・児童・生徒・学生は現実収入を得ていないのですから,基礎収入もあくまで蓋然性に基づく推測にすぎないという面があることは否定できません。
そのため,収入額・支出額・算定期間などによって調整される場合があります(最三小判昭和39年6月24日・民集18巻5号874頁)。
年金受給者
死亡事故の被害者が年金受給者であった場合に,その受給している年金を基礎収入として,逸失利益を算出できるのかということが問題となります。
この点については,年金は受給者が死亡すれば給付が終了されるものであり,稼働能力とは関係のないものであることから,逸失利益における基礎収入とはならないという考え方もあります。
もっとも,最高裁判所は,国民年金の老齢年金(最三小判平成5年9月21日),障害年金(最二小判平成11年10月22日),退職年金(最大判平成5年3月24日)を死亡逸失利益の基礎収入とすることを認めています。
ただし,遺族年金(最三小判平成12年11月14日・民集54巻9号2683頁)や年金恩給である扶助料(最三小判平成12年11月14日・集民200号155頁)については,基礎収入として認められないとされています。
なお,基礎収入として認められる国民年金等をまだ受給していない場合であっても,すでに受給資格を得ているというときには,受給開始までの期間等によっては,基礎収入とすることが認められる可能性はあるでしょう。
自賠責保険における基礎収入
前記までの議論は,主として裁判におけるものです。自賠責保険の場合には,基礎収入について,裁判とは異なる基準が設けられています。
具体的には,「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」にその基準が定められています。
通常の場合の基準
後記の年金受給者等以外は,以下の基準が用いられます。
属性 | 基礎収入の基準 |
---|---|
有識者 | 交通事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額。ただし,以下の場合は,それぞれに定める金額。 ア 35歳未満であって事故前1年間の収入額を立証することが可能な場合は,交通事故前1年間の収入額,全年齢平均給与額の年相当額及び年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額 イ 事故前1年間の収入額を立証することが困難な場合 (ア) 35歳未満の場合は,全年齢平均給与額の年相当額又は年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額 (イ) 35歳以上の場合は,年齢別平均給与額の年相当額 ウ 退職後1年を経過していない失業者(定年退職者等を除く。)は,ア・イの基準を準用。ただし,「事故前1年間の収入額」とあるのは,「退職前1年間の収入額」と読み替える。 |
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 | 全年齢平均給与額の年相当額とする。ただし,58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は,年齢別平均給与額の年相当額とする。 |
その他働く意思と能力を有する者 | 年齢別平均給与額の年相当額とする。ただし,全年齢平均給与額の年相当額を上限とする。 |
年金受給者等の場合の基準
ここでいう年金等の受給者とは,「各種年金及び恩給制度のうち原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし,無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まない。」のことをいいます。
属性 | 基礎収入の基準 |
---|---|
有識者 | 事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表Ⅳ)の年相当額のいずれか高い額 ただし,35歳未満の者については,これらの比較のほか,全年齢平均給与額の年相当額とも比較して,いずれか高い額 |
幼児・児童・生徒・学生・家事従事者 | 年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。 ただし,58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は,年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額 |
その他働く意思と能力を有する者 | 年金等の額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額 ただし,年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は,全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額 |
>> 自賠責保険の支払基準(外部サイト)
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