交通事故損害賠償における高額診療とは?
交通事故によって受傷した場合の診療費や治療費であっても,その診療等が「高額診療」によるものである場合には,損害として認められないことがあります。
ここでは,この高額診療とは何かについてご説明いたします。
交通事故損害賠償における高額診療とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
なお,弁護士によるご相談については,交通事故損害賠償請求の法律相談・ご依頼のページをご覧ください。
高額診療
交通事故によって受傷し,その傷害について診療や治療を受けた場合,その診療費・治療費は,基本的にその全額について積極損害として認められるのが通常です。
とはいえ,あらゆる診療費や治療費が損害であると認められるわけではありません。交通事故による傷害の治癒のために必要かつ相当なものでなければなりません。
この診療費・治療費について問題となるものの1つとして,「高額診療」の場合の診療費・治療費というものがあります。
高額診療といっても,単に診療費等が高額であるから認めない,というものではありません。高額であっても,その診療方法が交通事故による傷害の治癒のために必要かつ相当であれば,損害として認められます。
ここでいう「高額診療」とは,一般的な診療費・治療費の水準に比べて著しく高額な場合のことを意味します。
つまり,通常であればそれほどの費用をかけないで済む診療や治療があったはずなのに,それではなく,あえて(効果がさして変わらない)高額の診療・治療を受けたという場合のことを指しているのです。
高額診療による診療費等の取扱い
このような高額診療による診療費や治療費は,あえてそのような高額診療を受診しなければならなかったという「特別な事情」がない限り,損害として認められません。
前記のとおり,診療費等が損害として認められるためには必要性と相当性が必要であるところ,高額診療による診療費等は,別にもっと廉価で同じ水準の医療を受けられる以上,そのような診療等を受けなければならないという必要性がないばかりか,そのような費用まで加害者側に負担させるべき相当性もないからです。
もっとも,高額診療による診療費等が損害として認められないとはいっても,診療費等の全額が認められなくなってしまうというわけではありません。
高額診療の場合であっても,一般の水準の医療費相当額までは損害として認められます。それを超える部分だけが否定されることになるということです。
高額か否かの判断基準
前記のとおり,高額診療による診療費等は一部否定されてしまうのが原則です。そうなると,その否定された医療費は被害者の方で負担しなければならなくなってしまいます。
そのため,ご自身が受診した診療棟が高額診療に当たるのかどうかということは,重大な問題となってきます。そこで,この高額診療か否かの判断基準が問題となってきます。
健康保険診療と自由診療
高額診療の判断基準を考える前提として,診療を受ける場合,健康保険診療と自由診療の2つがあることを知っておく必要があります。
健康保険診療とは,文字どおり,健康保険を利用して診療を受ける場合です。
交通事故であっても,ほとんどの場合,健康保険診療が可能です(労働省昭和43年10月12日保険発第106号厚生省保険局保健課長通知)。
他方,自由診療とは,医師と患者との間の医療契約に基づいて報酬が決められるという場合の診療のことをいいます。
医師による診療の報酬については,点数制がとられています。簡単にいうと,各診療や治療が項目別に分類されており,その項目に当てはまる診療や治療をすると一定の点数(保険点数)が与えられるというものです。
健康保険診療の場合ですと,1点につき10円となります。しかし,自由診療の場合には特に定めがありません。極端にいうと,1点につき50円にしても100円にしてもよいということです(通常は高くても20円から30円程度でしょう。)。
したがって,高額診療が問題となるのは,自由診療の場合ということになるでしょう。
判断基準
高額診療か否かの判断においては,健康保険診療の診療報酬基準が利用されています。
かつては,赤い本においても,概ね健康保険基準の2.5倍程度を超えるものが高額診療に当たるという基準が示されていましたが,現在では,1.5倍から2倍程度を超えるものが高額診療であると認定される場合が増えつつあります。
各都道府県の医師会・損害保険協会・損害保険料率算出機構による診療報酬に関する三者協議において,交通事故自由診療の場合の診療報酬基準につき,1点12点とすべきという合意がなされていることから,高額診療の基準が減額化されたものと考えられます。
ただし,すべての都道府県医師会が上記の合意しているわけではありませんし,この合意には強制力もありません。あくまで紳士協定的な意味合いを有しているにすぎないのです。
したがって,この合意には,個々の医療機関に対する拘束力はないということです。そのため,これを遵守していない病院等も相当多くあり,完全な基準として認められてはいないのが現状です。
現に,医療機関によっては,交通事故の自由診療の場合には健康保険診療の2倍から3倍ということもあり得ます。
そのため,若干基準としてあいまいではありますが,保険点数1点12円を基準とせず,概ね健康保険基準の1.5倍から2倍というような基準が一般的に用いられているのです。
例外的に認められる場合
前記のとおり,高額診療による診療費等は,一般的水準を超える部分は損害として認められないのが通常です。
しかし,そのような高額診療を受診しなければならなかったというような特別な事情がある場合には,損害として認められることがあります。とはいえ,特別の事情の立証は非常に難しいのが現状です。
もっとも,高額診療かどうかは被害者(患者)本人には分からないのであるから,そのような被害者に分からないようなことをもって,高額診療であるから損害として認めないとするのは被害者保護に欠けるきらいがあります。
そこで,「仮に右治療が過剰診療,高額診療であったとしても,同原告においてこれを認識してあるいは認識しなかったことに過失があって右診療を受けたというような特別な事情がない限り,右診療は,本件事故と因果関係があるものというべきである。」とした裁判例もあり(福井地裁武生支部昭和52年3月25日),参考となるでしょう。
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