賃金の年俸制とは?
賃金額の決め方の1つに,年単位で賃金支給額を定める「年俸制」があります。ここでは,この賃金の年俸制について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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年俸制とは?
賃金の金額は,一般的に,月単位・日単位・時間単位で決めることが多いと思います。月単位で決める場合は月給制,日単位で決める場合は日給制,時間単位で決める場合は時給制と呼ばれます。
これらに対して,賃金の金額を年単位で決めることを「年俸制」と呼んでいます。
プロ野球選手などですと,この年俸制によって支払われる金額が決められていることはよく知られていますが,近時は,企業等においても年俸制が採用されていることが少なくありません。
誤解されている場合があるのですが,年俸制はあくまで賃金額を年単位で決めるというものにすぎません。実際の賃金の支払いが1年に1回になるわけではありません。
また,年俸制というと,その年俸額に時間外労働に対する割増賃金(残業代)等もすべて含まれているのが当然と思われている場合もありますが,そのようなことはなく,むしろ,年俸制であっても,時間外労働等をすれば割増賃金が発生するのが原則です。
年俸制における賃金支給と毎月払いの原則
前記のように,年俸制というと,年俸の支払いも1年に1回となる,というように誤解されている場合があります。
しかし,労働基準法は,労働者の生活安定の確保のために,毎月払いの原則を定めています(労働基準法24条)。賃金の支払いは毎月払いが原則なのです。
この毎月払いの原則は年俸制であっても変わりありません。したがって,年俸制だからといって1年に1回しか賃金を支給しないというのでは,毎月払いの原則に違反することになります。
毎月払いの原則に違反した場合,使用者は,刑事罰として,30万円以下の刑罰を科される場合があります(労働基準法120条1号)。
そこで,実際には,年俸制を採用している場合でも,その年俸金額を12で割って,その分割した金額を毎月支払うなどの方法で実施することになります。
>> 賃金の毎月払いの原則とは?
年俸制の場合でも残業代等請求できるか?
前記のとおり,年俸制にはもう1つの誤解があります。それは,年俸制の場合には,年俸に残業代などがすべて含まれているので,時間外労働等をしたとしても,残業代等を請求することはできない,という誤解です。
しかし,年俸制は単に賃金額を年単位で決めるという制度にすぎませんから,その年俸額に,当然に残業代等が含まれるなどということはありません。
年俸制の場合であっても,時間外労働をすれば残業代が,深夜労働をすれば深夜割増賃金が,休日労働をすれば休日割増賃金が発生するのが原則です。
したがって,年俸制だからといって,未払い残業代等請求ができないということはないのです。
ただし,後述の固定残業代制度が採用されている場合には,残業代等の全部または一部が年俸に含まれることになります。
年俸制と固定残業代制度
前記のとおり,年俸制が採用されている場合であっても,残業代等の割増賃金は発生するのが原則です。
もっとも,労働契約において,年俸の中に一定時間分の残業代等が含まれているという取り決め,いわゆる「固定残業代(定額残業代・みなし残業)」の制度が設けられている場合は別です。
この場合には,労働契約で定められた時間数分の残業代等は,年俸によって支払い済みであることになるので,その分の残業代等を別途請求することはできなくなります(なお,取り決めの固定残業時間を超える部分の割増賃金については請求できます。)。
ただし,これは,その固定残業代制度が適法に採用されている場合の話です。
労働契約では何ら取り決めをしていない場合や,具体的な固定残業時間数や金額などがまったく定められておらず,通常の賃金部分と固定残業代部分が明確に区分できない場合などは,その固定残業代制度は効力を有しないので,その固定残業代がないものとして,通常どおりの未払い残業代等請求をすることになります。
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