残業代など割増賃金はどのように計算するのか?
未払い残業代等を請求するためには,まず何より,法令に従って,できる限り正確な割増賃金の金額を算出しておく必要があります。
この計算は,複雑なところもありますので,基本的な手順は知っておく必要があるでしょう。
ここでは,残業代など割増賃金の計算方法と手順について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所が詳しくご説明いたします。
残業代など割増賃金はどのように計算するのか?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
なお,労働事件・雇用問題に関するご相談は,弁護士による労働事件・雇用問題の法律相談をご覧ください。
割増賃金の計算式
労働基準法上,使用者は,労働者を時間外労働(法外残業)させた場合,深夜労働させた場合,法定休日労働させた場合には,労働者に対し,基礎賃金を一定の割増率で割り増した「割増賃金」を支払わなければならないとされています。
この割増賃金には,時間外労働に対する割増賃金(いわゆる「残業代」),深夜労働に対する割増賃金(いわゆる「深夜手当」),休日労働に対する割増賃金(いわゆる「休日手当」)があります。
これらの割増賃金を計算は,法令によって定められていますが,若干,計算方法が分かりにくい部分があります。以下では,割増賃金の計算の手順をご説明いたします。
>> 割増賃金とは?

所定賃金の確認
残業代等割増賃金を計算するに当たっては,計算の基礎となる賃金(基礎賃金)を算出しておく必要があります。
この基礎賃金を算出するためには,まずそもそもの所定賃金の金額を確認しておく必要があります。
所定賃金とは,労働契約や就業規則などで定められている賃金のことをいいます。通常は,単に給与や給料,あるいは基本給と呼ばれるものです。
会社によっては,その他に家族手当や通勤手当などの各種手当が定められている場合もあるでしょう。
これらの手当も,上記労働契約や就業規則などで金額や支給基準が明確に定められている場合には賃金として扱われますので,所定賃金に含まれることになります。
所定賃金は,大半の場合には雇用・労働契約書や,それがなければ給与明細を見れば確認することが出来るでしょう。

基礎賃金の確認
残業代・休日手当・深夜手当といった割増賃金は,算定の基礎となる賃金に一定の割増率を乗じて計算することになります。
したがって,割増賃金計算においてまずやるべきことは,この算定の基礎賃金の金額を算出しておくことです。
基礎賃金の金額は,一般的には,所定賃金の金額と同額となりますが,基礎賃金と所定賃金とは必ずしも一致するとは限りません。
各種の手当などが基本給のほかにも所定賃金として支給されている場合には,その各種手当が賃金に該当するものであるかどうかを検討する必要があります。
また,賃金に該当するものであっても,一定の賃金は,割増賃金算定の基礎賃金から除かれると規定されています。この基礎賃金から除かれる各種手当等のことを「除外賃金」と呼んでいます。
したがって,基礎賃金は,【 所定賃金 - 除外賃金 】の計算式によって計算することになります。
基礎賃金の確認の参考例
たとえば,支給される給料が,以下のとおりであったとします。通常は,給与明細をみれば分かるでしょう。
- 基本給: 200,000円
- 家族手当: 10,000円
- 住宅手当: 10,000円
- 営業手当: 50,000円
- 合計: 270,000円
この場合,家族手当と住宅手当は,除外賃金です(ただし,事情によっては除外賃金に当たらない場合もあります。)。
したがって,家族手当と住宅手当の20,000円は,所定賃金である270,000円から差し引かれるので,残業代等計算の基礎賃金は,250,000円ということになります。

所定労働時間の確認
基礎賃金を算出できたとしても,それだけでは残業代などの割増賃金の金額を計算することはできません。割増賃金を計算するためには,この基礎賃金の1時間当たりの金額を算出する必要があるからです。
この1時間当たりの基礎賃金を算出する前提として,所定労働時間を確認しておく必要があります。
労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下において労働を提供する時間のことをいいます。そして,就業規則や労働契約などであらかじめ定められている労働時間のことを,所定労働時間といいます。
残業代等の割増賃金を計算する場合には,まずこの所定労働時間を算出して,1時間当たりの基礎賃金を計算しなければなりません。
もっとも,この残業代計算の基礎とする所定労働時間は,必ずしも単純に毎日の所定労働時間を足していけばいいというものではありません。
月給制の場合
月給制の場合,就業規則等で,毎月の所定労働時間数が具体的に定められているのであれば,それに従うことになります。
そのような具体的な定めがされていない場合,残業代計算の基礎とする所定労働時間は,1年間の所定労働日数を12で割って月ごとの平均所定労働日数を算出し,その上で,その月間平均所定労働日数に1日の所定労働時間を掛けて,月間の合計の所定労働時間数を算定していきます。
年間の所定労働日数は,就業規則等で定めらていればその日数となります。しかし,そうでなければ,1年の日数(通常は365日ですが,閏年は366日です。)から所定休日を差し引いて計算することになります。
そして,上記で算出された1年間の所定労働日数を12で割り,1か月ごとの平均所定労働に数を算定します。
この1か月ごとの平均所定労働日数に1日の所定労働時間を掛ければ,1か月の所定労働時間を算出することができるというわけです。
【月給制の場合の計算式】
(1年間の総日数-1年間の所定休日日数) ÷ 12 × 1日の所定労働時間数
日給制の場合
日給制の場合,残業代計算の基礎とする所定労働時間は,1日の所定労働時間を基準とすることになります。例えば,所定労働時間が1日8時間なのであれば,1日8時間を基礎として残業代を計算することになります。
もっとも,日給制の場合には,ある日は8時間,その次の日は6時間などというように,日によって労働時間が異なるということもあり得ます。
1日ごとの所定労働時間数が就業規則等によって定められていればそれに従いますが,そうでない場合には,1週間の所定労働時間を基準とすることになります。
つまり,1週間分の所定労働時間の合計数を7で割って,1日の平均所定労働時間を算出するというわけです。
【日給制の場合の計算式(日によって異なる場合)】
1週間の合計所定労働時間 ÷ 1週間の所定労働日数

1時間当たりの基礎賃金の算出
残業代など割増賃金の計算は,1年単位・1月単位などではなく,1時間当たりの基礎賃金を基本として算定するのが原則です。
したがって,基礎賃金の金額が算出できた後にすることは,その基礎賃金の1時間当たりの金額を算出する必要があります。
1時間当たりの基礎賃金は,以下の計算式で算出します。
- 【 基礎賃金 ÷ 月ごと(または日ごと)の所定労働時間数 】

実労働時間の確認
残業代・深夜手当・休日手当は,実際に時間外労働をした時間,深夜労働をした時間,休日労働をした時間に応じて支払われることになります。
そこで,これらの時間外労働・深夜労働・休日労働をした実労働時間を算出しておく必要があります。
この実労働時間は,実際に労働をした時間です。タイムカードなどによって算定しておく必要があるでしょう。また,労働時間数を算出する場合には,1分単位で算出しておくのが通常です。
したがって,実際に計算する際には,「1時間当たりの基礎賃金」ではなく,「1分当たりの基礎賃金」を算出しておいた方が計算しやすいでしょう。
1分当たりの基礎賃金は,1時間当たりの基礎賃金を60で割ればよいだけです。

割増賃金の算出
前記の手順で算出した1時間当たりの基礎賃金をもとに,残業代などの割増賃金の金額を算出します。計算式は,以下のとおりです。
- 【 1時間当たりの基礎賃金 × 実労働時間数 × 割増率 】
基本的な割増率
割増賃金は,基礎賃金に一定の割増率を乗じて計算します。この割増率は,基本的に法律によって決められています。
ただし,法律で定められている法定の割増率よりも高い割増率が就業規則等で定められている場合には,それに従います。
逆に,就業規則等に割増率が定められているものの,それが法定の割増率よりも低いという場合には,法定の割増率で計算をします。
基本的な法定の割増率は,以下のとおりです。
- 時間外労働に対する割増率:25パーセント増
- 深夜労働に対する割増率: 25パーセント増
- 休日労働に対する割増率: 35パーセント増
なお,就業規則や労働契約などで残業代の割増率を1.25倍以上とすることも,深夜手当の割増率を1.25倍以上とすることも,休日手当の割増率を1.35倍以上とすることも,当然可能です。
そのような定めがある場合は,その割増率で計算すればよいということになります。
他方,就業規則などで残業代の割増率を1.25倍未満,深夜手当の割増率を1.25倍未満,休日手当の割増率を1.35倍未満とした場合はどうなるかというと,労働基準法は最低限度の基準ですから,1.25倍未満や1.35倍未満と定めたとしてもそのような定めは無効です。
したがって,そのような無効な割増率は無視して,労働基準法で定める割増率で計算すればよいだけです。
時間外・深夜・休日が重なる場合
また,割増となる場合が複合しているときは,基本的には足し算となりますが,休日労働の場合のみ異なります。。
- 時間外の深夜労働の場合: 25+25=50パーセント増
- 休日の時間外労働の場合: 35パーセント増のみ
- 休日の深夜労働の場合: 35+25=60パーセント増
- 休日・時間外の深夜労働: 35+25=60パーセント増のみ
1月60時間を超える時間外労働
さらに,長時間労働の防止のために,1月60時間を超える時間外労働(残業)については,通常の時間外労働と異なり,1月60時間を超える部分の割増率が50パーセント増となっています(労基法37条1項ただし書き)。
ただし,この規定が適用されるのは,現在のところ一部大企業のみです。以下のような使用者に対しては適用されていません(労基法138条)。
- 資本金額または出資金額が3億円以下の場合および常時使用する従業員が300人以下の場合
- 小売業の場合には,資本・出資金額が5000万円以下の場合及び常時使用する従業員が50人以下の場合
- サービス業の場合には,資本・出資金額が5000万円以下の場合及び常時使用する従業員が100人以下の場合
- 卸売業の場合には,資本・出資金額が1億円以下の場合及び常時使用する従業員が100人以下の場合
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- 労働事件の弁護士報酬・費用
- 労働問題の基礎知識(目次)
- 時間外労働に対する割増賃金(残業代)とは?
- 深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)とは?
- 休日労働に対する割増賃金(休日手当)とは?
- 割増賃金とは?
- 月給制の場合に割増賃金はどのように計算するのか?
- 日給制の場合に割増賃金はどのように計算するのか?
- 割増賃金算定の基礎賃金はどの期間を単位とするのか?
- 残業代など割増賃金の割増率はどのくらいか?
- 暦日をまたいで継続勤務した場合の割増賃金の計算方法とは?
- 割増賃金計算における除外賃金とは?
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