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退職金・退職手当の請求

退職金規程がない場合でも退職金を請求できるか?

退職金規程が無い場合,労働者は使用者に対して退職金を請求できないのが原則です。ただし,退職金を支払う旨の労使慣行(労働慣行)が存在すると認められる場合には,その慣行に基づいて退職金を請求できることがあります。

ここでは,退職金規程がない場合でも退職金を請求できるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。

なお,労働事件・雇用問題に関するご相談は,弁護士による労働事件・雇用問題の法律相談をご覧ください。

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退職金を支払う旨の規程が無い場合の退職金請求の可否

使用者は,労働者に対して,労働の対価として賃金を支払う義務があります。

しかし,退職金については,必ず支払わなければならないものとはされていません。退職金を支払うかどうかについては,使用者の側に裁量権・選択権があるのです。

ただし,退職金を支払うことが労働契約の内容とされている場合は別です。その場合には,使用者は労働者に対して退職金を支払う義務を負うことになります。

つまり,労働者が使用者に対して退職金を請求できるのは,労働契約・就業規則労働協約において退職金を支払う旨の規程が定められている場合に限られるということです。

退職金を支払う旨の規程が無い場合には,退職金を請求することができないのが原則です。

しかも,規程があっても,退職金を支払うか否かや支給基準が使用者の裁量に委ねられている場合には,その退職金は任意的・恩給的な給付にすぎず,賃金性を有しないといえます。

そのため,労働契約・就業規則・労働協約において退職金を支払う旨の規程が定められているだけでなく,その規程において支給額や支給基準が明確に定められている場合でなければ,退職金を請求することはできないと解されています。

ただし,後述のとおり,例外的に,退職金支給につ労使慣行(労働慣行)があると認められる場合には,退職金を支払う旨の明確な規程が無いときでも,退職金請求が可能となることがあります。

>> 退職金・退職手当を請求できるのはどのような場合か?

退職金を支払う旨の労使慣行がある場合

前記のとおり,労働者が使用者に対して退職金を請求できるのは,労働契約・就業規則・労働協約において退職金を支払う旨が規定されており,しかも,支給額や支給基準が明確に定められている場合に限られるのが原則です。

ただし,例外的に,退職金規程が無いときでも,退職金を支払う旨の確立した労使慣行(労働慣行)がある場合には,その慣行に従った退職金請求権が発生すると解されています。

労使慣行(労働慣行)とは,一定の事実または同種の行為が長期間にわたり反復継続して行われており,当事者がそれに従うことを当然のことと認識している場合のことをいいます。

要するに,退職金規程がなかったとしても(または明確な支給額や支給基準が定められていなくても),一定の退職金を支払うことが会社内で当然のことになっていたのであれば,退職金を請求できるということです。

とはいえ,労使慣行があったといえるのか,それが確立したものといえるのかの判断は簡単ではありません。

この点に関し,退職金を支払う旨の確立した労使慣行があるかどうかについては,以下の要件を充たしている必要があると解されています。

  • 過去に退職した多数の労働者が受領した退職金の額に照らして,明確な退職金支給基準が存在し,当該事件の労働者について具体的な退職金金額が特定できること
  • 上記のとおりに支払うのが,両当事者(退職金支払いに関しては特に使用者側)にとっての規範的意識(法的義務として支払わなければならないという意識)として理解されるに至っていること

確立した労使慣行に基づいて退職金を請求しようという場合には,上記の要件について,労働者側において主張・立証をする必要があります。

労使慣行に基づく退職金請求の裁判例

労使慣行に基づく退職金請求権を認めた裁判例としては,以下のものがあります。

東京地判昭和48年2月27日(宍戸商会事件判決)

東京地判昭和48年2月27日(宍戸商会事件判決)では,裁判所は,以下のとおり判示して,退職金を支払う旨の確立した労使慣行があったと認めています。

被告会社においては,後記2の2名を除いては,退職者全員に原告主張の支給基準で退職金が支払われていること(弁論の全趣旨により退職の態様にかかわりがないものと認める。)がうかがわれること,しかも,わずか2年6ケ月の勤続者にも同様の基準で支払われていたことから、退職金は、賃金の後払いと認めるのが相当であり,退職者の退職時の基本給プラス諸手当に勤続年数を乗じた額の退職金を支給する慣行が成立していたものといわなければならない。

東京地判昭和51年12月22日(日本段ボール事件判決)

東京地判昭和51年12月22日(日本段ボール事件判決)の事案は,就業規則等に退職金支給の定めがなかったものの,退職金支給基準が作成されており,実際に同基準に基づく退職金が退職者らに支払われていたという事案です。

この事案について,裁判所は,以下のとおり判示して,退職金を支払う旨の確立した労使慣行があったと認めています。

被告会社には明文の退職金規定は存在していなかったが,右認定した基準に基づく退職金算出方法で算定した退職金が支払われており,右基準による退職金の支給は被告会社において確立した慣行になっていたことが認められるから右慣行は被告会社と原告らとの雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。

東京地判平成7年6月12日

東京地判平成7年6月12日の事案は,正式な退職金規程はなかったものの,退職金規程案が作成されており,同規程案に基づいて,数十件にわたり退職者に対して退職金が支給されていたという事案です。

この事案について,裁判所は,以下のとおり判示して,退職金を支払う旨の確立した労使慣行があったと認めています。

正規の退職金規程が制定されていたということはできないが,当初に案として作成・書面化された本件退職金規程に基づいて退職金を支給する実績が積み重ねられることにより,右支給慣行は既に確立したものとなったと認められ,これが被告会社と原告らの雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。

横浜地判平成9年11月14日(学校法人石川学園事件)

横浜地判平成9年11月14日(学校法人石川学園事件)の事案は,就業規則には退職基金財団の規定内で退職金を支払う旨の規定があるものの,実際には,昭和44年3月以前に就職した従業員に対して,同財団から支払われた退職手当資金に「持出分」を加え,全在職期間を通じた右財団の給付乗率をもって算定した退職金を支払っていたという事案です。

この事案について,裁判所は,以下のとおり判示して,労働者側主張の退職金を支払う旨の確立した労使慣行があったと認めています。

被告は,平成6年2月14日から実施された洋裁学院の就業規則には退職基金財団の規定内で退職金を支払う旨の規定があるが,実際は,右就業規則実施の前後を通じ,退職基金財団から支払われた退職手当資金に,これと昭和44年3月以前に現実に在職した全期間による給付乗率に置き換えて算定した額との差額を被告「持出分」として加算し,これを退職金として支払っているものであって,右基準による退職金の支給は被告において確立した慣行になっていたと認められるから、右慣行は被告と原告との雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。

東京地判平成17年4月27日

東京地判平成17年4月27日の事案は,退職金規程はなかったものの,内部的に退職金基本算定式が存在し,検証の対象とするのが適当とされる27名の退職者のうち13名に対してはその算定式に基づいて算出された退職金が支払われており,うち10名に対しては算定式との誤差20%以下の金額の退職金が支払われていたという事案です。

この事案について,裁判所は,以下のとおり判示して,退職金を支払う旨の確立した労使慣行があったと認めています。

被告の退職金支給基準について本件退職金基本算定式が原告らに判明したのは被告からの主張がきっかけであること,被告が申請した証人A(被告の事務主任)も被告の退職金は本件退職金基本算定式に従って算出していると証言していること,被告の主張がすべて正しいと仮定して,平成2年から同13年までの間に被告を退職した従業員27名のうち約半数の13名が本件退職金基本算定式どおりの退職金の支給を受けていること,残る14名のうち10名も本件退職金基本算定式と誤差20%の範囲内で退職金の支給を受けていること,本件退職金基本算定どおりの退職金額にならないのは退職する際に被告からの給与の前借分その他被告に対する債務と相殺することが合意されたこともあり得ること(弁論の全趣旨)等を考慮すると,被告においては,退職する従業員に対し,本件退職金基本算定式,すなわち,「基本給×(勤続年数-3年)×0.7」(勤続年数が1年に満たない部分は切り捨て)という基準で退職金を支払う慣行が存在していたと推認するのが相当である。

>> 東京地判平成17年4月27日の判決文

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