未払い残業代など割増賃金の付加金とは?
未払いの割増賃金(残業代・休日手当・深夜手当)を請求する場合,遅延損害金も一緒に請求することになりますが,この未払い割増賃金を訴訟で請求する場合には,さらに「付加金」も併せて請求することができます。
付加金とは,割増賃金を支払わなかったことについての使用者に対する一種の制裁金のようなものです。
訴訟で請求する場合にだけ,この付加金を一緒に請求することができるとされています(労働審判でも形式的に請求だけすることは可能です。)。
ここでは,残業代等請求における付加金の請求について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
未払い残業代など割増賃金の付加金とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
※東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所における未払い残業代等請求のお取り扱いについては,未払い残業代等請求の経験豊富な弁護士をお探しの方へをご覧ください。
付加金とは?
労働基準法 第114条
裁判所は,第20条,第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して,労働者の請求により,これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか,これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし,この請求は,違反のあつた時から2年以内にしなければならない。
訴訟で,残業代・休日手当・深夜手当といった割増賃金を請求する場合,これら割増賃金それ自体に加えて「付加金」という金銭の支払いも請求できる場合があります。
付加金とは,割増賃金を支払わなかったことについての使用者に対する制裁金としての性質を持つ金銭のことです。
付加金については,労働基準法114条に規定されています。この規定のとおり,付加金は,最大で未払い金と同額の金銭が認められる可能性があります。
つまり,未払い残業代等が100万円あれば,付加金も100万円請求できるということです(実際には時効や除斥期間の関係で,若干金額に違いが出る場合はあります。)。
これは,使用者にとっては大きな打撃になるでしょう。
付加金とは,ダメージを与えるほどの金銭の支払い義務という負担を使用者に課すことによって,サービス残業や賃金等の不払いを抑制しようというところにその趣旨があるのです。
付加金が認められる場合
前記規定のとおり,付加金請求が認められるのは,以下の金銭の未払いがあった場合です。
- 解雇予告手当(労基法20条)
- 使用者の責に帰すべき休業の場合の休業手当(労基法26条)
- 時間外労働に対する割増賃金(残業代。労基法37条)
- 法定休日労働に対する割増賃金(休日手当。労基法37条)
- 深夜労働に対する割増賃金(深夜手当。労基法37条)
- 有給休暇中の賃金(労基法39条7項)
これらの未払いがある場合には,付加金が認められる場合があることになりますが,前記規定では,この付加金の支払いを命じることができるのは「裁判所」であると定められているため,付加金が認められるのは「訴訟」の場合に限られると考えられています。
また,この付加金は,違反のあった時から3年以内に請求しなければならないとされています。これは,消滅時効ではなく,除斥期間と考えられています。
したがって,時効のように中断がなく,違反のあった時(支払がないまま支払期日を経過した時)から3年が経過すると請求できなくなってしまいます。
加えて,付加金の支払いは必ず命じられるものではなく,あくまで,「支払を命じることができる」と規定されているにすぎません。
つまり,付加金の支払いを命じるかどうかは,裁判所の裁量にかかっているということです。そのため,個々の事情によっては,付加金が認められないということもあります。
なお,どのような場合に付加金の支払いが認められるについては,条文上明確な基準はなく,また最高裁判所の判例もありませんが,基本的には,使用者側の対応の悪質性の程度や労働者が被った損害の程度等によって判断されることになるでしょう。
実際に付加金が支払われる場合
前記のとおり,使用者側に悪質性が認められる場合などには,判決において付加金が認められる場合があります。LSC綜合法律事務所でも,ほぼ全額の付加金が認められたというケースもあります。
もっとも,勝訴判決を得たとしても,実際に支払われるかどうかは別問題です。
事実審の口頭弁論終結時までに割増賃金等の全額が支払われた場合には,もはや付加金を請求することはできず(最二小判昭和35年3月11日),また,裁判所も付加金を認める判決はできないものとされています(最二小判昭和51年7月9日)。
したがって,たとえば第一審で付加金を認める判決がなされたとしても,控訴をして,その控訴審が終結するまでに割増賃金分だけでも支払っておけば,使用者は付加金までは支払う必要がなくなるのです。
訴訟で敗訴した後でも,割増賃金だけ支払ってしまえば付加金を支払わなくてよくなるというのは,制度的に疑問があるとしかいえませんが,ともかく,上記のような付加金を免れる方法があるため,実際には,付加金が支払われるというケースは非常に少ないと思われます。
もちろん,割増賃金全額を支払わせる強制力にはなりますので,その点では,付加金制度にも,一応の意味や効果はあるといえるでしょう。
付加金の金額・現状
前記のとおり,訴訟においては付加金を請求することが可能です。もっとも,請求は可能としても,それが認められるかどうかは裁判所の裁量ということになります。
また,仮に認められた場合に,請求金額は全額認められるのか,それとも請求金額の一部しか認められれないのかという問題もあります。
前記条文では,「同一額の付加金の支払を命ずることができる」としか規定されいません。
素直に読むと,付加金の支払いを認めるということ=請求金額全額の支払いを認めるということ,というようにも読めます。
つまり,裁判所には,請求金額全額を認めるのか,それとも全額認めないのか,という裁量しかないという解釈です。
もっとも,多くの裁判所はそのように解釈していません。多くの裁判所では,not or allの裁量権しかないというわけではなく,裁判所には,支払を認めるとしても,全額ではなく,一部の支払いだけ認めることもできるという裁量があると解しているようです。
したがって,実際に判決で付加金の支払いが認められたとしても,全額ではなく,一部支払いしか認められないという場合も少なくないでしょう。
むしろ,数年前はともかく,現在では,裁判所も付加金支払いを命じることについては消極的な面があり,常に付加金全額の支払いが認められるとは限りません。
また,賃金請求等の労働事件は,基本的に和解によって解決するのが通常であるため,判決に至るケースの方が少ないのが現状です(もちろん悪質な事案は別です。当事務所でも付加金全額支払いの判決を獲得しています。)。
したがって,付加金の実際の効用は,判決に至れば付加金を支払わなければならなくなるかもしれないという威嚇力を利用して,和解によって紛争を迅速に解決するというところにある(少なくとも裁判所はそのように考えている。)と言ってよいかもしれません。
労働審判における付加金請求
付加金請求の問題の1つに,労働審判において付加金を請求できるかという問題があります。
前記条文のとおり,付加金の支払いを命じることができるのは「裁判所」です。
ところが,労働審判において決定を下すのは「裁判所」ではなく,「労働審判委員会」です。そのため,労働審判において付加金請求できるのかが問題となります。
なぜこのような議論がなされているのかというと,それは付加金の除斥期間と関わってきます。
除斥期間には,消滅時効のような中断がありませんから,除斥期間内に裁判で請求する必要がありますが,労働審判では付加金を請求できないということになると,労働審判では除斥期間を止めることができないということになり,未払い残業代等請求で労働審判を利用する意義が減少してしまうからです。
この点については,多くの裁判所も,労働審判でも付加金を請求することは可能であるという解釈をとっているようです。
したがって,労働審判で割増賃金等を請求する場合には,付加金も同時に請求しておく必要があるでしょう。
ただし,付加金を請求できるということと,それが実際に認められるということは別の問題です。
労働審判においては,申立ての段階で付加金を請求することは認められますが,実際に付加金の支払いが命じられることはないというのが一般的でしょう。
したがって,付加金支払いまで想定するのであれば,訴訟提起を検討する必要があるでしょう。
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