固定残業代に関する最二小判平成6年6月13日(高知県観光事件判決)
固定残業代(定額残業代)制度の有効性について参考となる判例として,最高裁判所第二小法廷平成6年6月13日判決(高知県観光事件判決)があります。
ここでは,この最高裁判所第二小法廷平成6年6月13日判決(高知県観光事件判決)について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
固定残業代に関する最二小判平成6年6月13日(高知県観光事件判決)
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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高知県観光事件判決の事案
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度が有効といえるのかについては,未払い残業代請求において,頻繁に問題となる争点です。
この固定残業代の有効性という争点の判断について,参考となる判例が,以下でご紹介する高知観光事件(最高裁判所第二小法廷平成6年6月13日判決)です。
この判決の事案における労働者は,タクシー運転手です。この運転手が,使用者(高知観光)に対し,未払いの残業代・深夜手当を請求したという事案です。
この事件の使用者である会社(高知県観光)では,運転手に対する賃金は,毎月1日から末日までの間の稼働によるタクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた歩合給の形で支払うというものでした。
そこで,会社側は,この歩合給には,いわゆる基本給部分だけでなく,時間外労働(残業)や深夜労働に対する割増賃金(残業代・深夜手当)も含まれていたという反論をしています。
固定残業代のうちでも歩合給に固定残業代や固定深夜割増賃金が含まれているというタイプの主張について判断されている判例です。
>> 歩合給に固定残業代が含まれているとの主張は有効なのか?
高知県観光事件判決の判示
高知観光事件判決(最二小判平成6年6月13日)は,以下のとおり判示しています(以下は一部抜粋)。
本件請求期間に上告人らに支給された前記の歩合給の額が,上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして,この歩合給の支給によって,上告人らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり,被上告人は,上告人らに対し,本件請求期間における上告人らの時間外及び深夜の労働について,法37条及び労働基準法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務があることになる。
>> 実際の判決文(裁判所HPから)
上記のとおり,高知観光事件判決では,結論として,歩合給には残業代や深夜手当等の割増賃金は含まれていないので,使用者は,労働者に対して,残業代や深夜手当等の割増賃金を支払う義務があると判断されています。
その理由として,上記判決は,本件の歩合給は,時間外労働や深夜労働を行ったとしても増額がなされていないこと,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外・深夜労働の割増賃金に当たる部分とを判別できないものであったことを挙げています。
時間外・深夜労働をしても増額がなされないということは,それらの労働をいくら行っても一定額しか支給されないということですから,そもそも,本件歩合給が,時間外労働や深夜労働に対する対価として予定されていたものではないということを意味します。
また,通常の労働時間の賃金と割増賃金部分を判別できないとすると,一体何を基準に割増賃金を算定しているのかということになりますから,やはり,そもそも,本件歩合給は,時間外労働や深夜労働に対する対価として予定されていたものではなかったということです。
これらの事情から,上記判決は,本件歩合給には,残業代や深夜手当が含まれているとはいえないと判断しているのです。
この判決の事案は歩合給に残業代等が含まれているというタイプの固定残業代制度が問題となっている事案ですが,上記判示の理由づけは,他のタイプの固定残業代の場合にもあてはまるといえるでしょう。
特に2番目の理由づけです。
すなわち,固定残業代の場合でも,基礎賃金部分と割増賃金部分が判別されていない場合には,そもそも割増賃金を算定していなかったということですから,固定残業代制度を採用していたとはいえないというように考えることができるからです。
高知県観光事件判決から導き出される規範
前記高知県観光事件判決からわかることは,固定残業代・定額残業代という制度を利用するためには,通常の労働時間の賃金(いわゆる基本給)部分と割増賃金部分とが判別できるように取り決めておく必要があり,そのような判別ができない場合には,割増賃金が支払い済みであるとはいえないということです。
したがって,使用者が,仮に支払った賃金に残業代や深夜手当・休日手当が含まれていると主張したとしても,その賃金のうちで基本給部分と割増賃金部分が明確に判別できるようになっていない限り,そのような使用者側の主張は通らないということになります。
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