定額手当が固定残業代の実質を有するかどうかはどのように判断するのか?
使用者側からの固定残業代(定額残業代・みなし残業代)の主張には,支給されている各種の定額手当であるというタイプの主張もあります。
ここでは,この固定残業代と主張された定額手当が残業代としての実質を備えているのかの判断について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
定額手当が固定残業代の実質を有するかどうかはどのように判断するのか?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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定額手当の支給による固定残業代制度
労働者からの未払い残業代請求に対する使用者側からの反論・抗弁として,いわゆる「固定残業代(定額残業代・みなし残業代)」の主張がされることは少なくありません。
固定残業代の主張にはさまざまなタイプがあります。
そのうちの1つに,基本給等とば別に支払われている各種の定額手当が固定残業手当であるから,その分は支払う必要がないまたは残業代計算の基礎賃金から除外すべきである,という主張があります。
もちろん,固定残業代であるから違法,というわけではありません。法的要件を満たして適切に運用されていれば,固定残業代の主張も効力を生じます。
その場合には,固定残業代とされる定額手当は残業代計算の基礎賃金から除外されるとともに,その固定残業代とされる定額手当金額は支払い済みとして扱われることになるでしょう。
しかし,実際には,固定残業代が適切に運用されているという例は多くありません。
つまり,少なくとも訴訟等で争われているような場合には,固定残業代制度の有効性に問題があることが少なくないということです。
よくある使用者側からの主張
実際の未払い残業代請求においてよくある事例は,労働者が未払い残業代を請求したとたんに,それまで何らの説明もなかったのに,給与明細上などで「営業手当」や「店長手当」などの名目で支払われていた賃金は,実は固定残業代(定額残業代・みなし残業代)であるという主張が使用者からなされるという事例です。
このような事例の場合,労働者は就業規則を見たこともなく,あることすら知らされていなかったにもかかわらず,残業代請求をした後に,突然,使用者側から,支給していた営業手当や店長手当が「●●時間分の割増賃金である」という内容が記載された就業規則が提出されてきて,就業規則に規定がある以上,固定残業代制度は有効であるという主張がされるというパターンが非常に多くみられます。
上記のような場合,労働者としては,労働契約において各種定額手当が固定残業代であるという合意はしていないこと,就業規則が真正なものでないことまたは周知されていないことなどを反論していくことになります。
また,上記反論に加えて,その各種定額手当は,固定残業代ではないこと,つまり,固定残業代としての実質を有していないことも主張していく必要があるでしょう。
残業代としての実質の判断
前記のとおり,定額手当の支給による固定残業代(定額残業代・みなし残業代)が使用者側から主張され,その有効性を争う場合には,労働者側としては,当該定額手当は固定残業代としての実質を有していないから,固定残業代ではないという主張もすべきです。
たとえば,使用者側から,過去に当該定額手当は固定残業代ではないという説明を受けていたことの書面や録音など決定的なものがあれば別ですが,そうでなければ,個別の事実を積み上げて,固定残業代ではないという反論をしていくほかありません。
どのような場合に定額手当に残業代の実質がないと判断されるのかは,各事案によってケースバイケースですので一概にはいえませんが,以下のような点が判断の要素になると考えられます。
定額手当の名目
もし本当に使用者の主張するとおりある定額手当が固定残業代だったのであれば,その手当の名目は「固定残業手当」など,すぐに固定残業代であると分かる名目にしておくのが通常でしょう。
固定残業手当ではなく,まったく違う名称,たとえば,「営業手当」「店長手当」「職能手当」のような名目であった場合には,本来,それらの手当は固定残業代ではなかったのではないかという可能性が生じてきます。
当初は,営業手当等であったのに,ある時から突然,固定残業手当に変わったというような場合も,同様のことがいえます。
したがって,それらの点は指摘しておくべきでしょう。
定額手当の金額
使用者側の主張する基礎賃金額や固定残業時間から計算しても,定額手当の金額が使用者側の主張のとおりにならないということは,固定残業代ではなかったということを推認させることになるでしょう。
また,これもよくありますが,支給総額自体はまったく変わらないのに,手当の名目や金額だけが何回も変わっているということがあります。
要するに,各手当に特別な意味はないということですから,その点も固定残業代ではなかったということを推認させることになるでしょう。
ただし,たいていの場合,使用者側は,辻褄があうような固定残業時間を主張してきます。
そのような場合には,たとえば,昇給したにもかかわらず固定残業代とされる定額手当の金額が変わっていないことなどを主張していくことになります。
つまり,固定残業代の金額が変動すべき事情が生じているのに変動していないということは,当該定額手当は固定残業代ではないということを推認させることになりますから,その点を主張するということです。
定額手当の金額の計算方法
もし,使用者側の主張する定額手当の金額の計算方法とは別に,本当の計算方法があり,それを知っている場合には,その計算方法も主張しておくことになります。
たとえば,営業手当5万円が●●時間分の固定残業代であるという使用者側の主張に対し,実際には,その金額は営業件数に応じて計算されているという場合には,そのことを主張するということです。
労働者側の主張した計算方法で計算した方が金額が一致するなど,使用者側の主張する計算方法よりも辻褄があうものであれば,固定残業代ではないということを推認させる根拠になるからです。
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