固定残業代制度が有効となる要件とは?
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)が有効といえるためには,一定の要件を満たしていなければなりません。
ここでは,この固定残業代(定額残業代・みなし残業代)が有効となるにはどのような要件が必要となるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
固定残業代制度が有効となる要件とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度
未払い残業代等請求において,使用者側からなされる抗弁として最も多いものは,「固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度」を採用していたという主張です。
固定残業代制度とは,基本給または各種手当などに,一定時間分の時間外労働等に対する割増賃金を含めて支給するという制度です。
あらかじめ,固定残業として一定時間分の残業代等は支払い済みであるというような主張です。
この固定残業代制度も,労働基準法に反するとまではいえません。しかし,実際には,使用者側が残業代等の割増賃金を支払わないようにするための方策に悪用されてしまっているのが現状です。
そのため,未払い残業代請求においては,この使用者側からの固定残業代制度の主張を争っていかなければなりません。
そして,そのためには,固定残業代制度がどのような場合に有効となるのかの要件を理解しておく必要があるでしょう。
固定残業代制度の有効要件は,以下のとおりです。
- 固定残業代制度を採用することが労働契約の内容となっていること
- 通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分が明確に区別されていること
- 労働基準法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていること(これを要件とするかについては争いがあります。)
労働契約の内容となっていること
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度は,労働者の「賃金」に関わる事項であり,雇用・労働において最も重要な労働条件に関わる問題です。
したがって,固定残業代制度をある特定の労働者に対して適用するためには,その労働者と使用者との間で,固定残業代制度を採用するという労働契約・個別の合意を締結していなければなりません。
労働契約・個別の合意がない場合でも,就業規則に規定があれば労働契約の内容となりますが,その就業規則が労働者に周知されていることが必要となります。
この固定残業代制度に関する労働契約・個別の合意も,また,就業規則にも規定がなく, 就業規則に規定があっても周知されていない場合には,その固定残業代制度は労働契約の内容とはいえないので,当然,効力を生じないことになります。
就業規則の周知性
前記のとおり,労働契約・個別の合意がない場合でも,就業規則に規定があり,それが労働者に周知されていれば,労働契約の内容となります。
ところが,実際の未払い残業代等請求においては,それまで使用者側が周知しておらず,労働者が見たこともない固定残業代制度の規定がある就業規則が,突然,提出されることがあります。
いわゆる「就業規則隠し」の場合です。
この場合には,この就業規則が周知されていなかったことを争っていく必要があるでしょう。
就業規則の周知性を労働者・使用者のいずれが主張・立証すべきかについては明確な判例はまだありませんが,周知したことで発生する法的効果によって利益を得るのは使用者であることや,周知されていなかったことの立証は困難であることからすれば,使用者側に就業規則の周知性の主張立証責任があると解すべきと思われます。
就業規則の変更による固定残業制度の追加
使用者側からの反論としてよくあるものは,入社当初は労働契約・個別の合意も就業規則の規定もなかったものの,その後,固定残業代制度を導入するという就業規則の改定を行っているという主張です。
しかし,就業規則は,労働者の不利益に変更することは原則として禁止されています。
例外的に,事情があって就業規則を労働者の不利益に変更する場合であっても,その変更が合理的なものでなければ,その変更は効力を生じません。
どのような場合に合理的といえるのかについては,「就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」とされています(第四銀行就業規則不利益変更事件・最二小判平成9年2月28日)。
固定残業代制度を導入することは,内容によっては,労働者の基礎賃金を減額させ,時間外労働等に対する割増賃金を減少させることもありますから,就業規則の不利益変更に当たり得るので,その場合は,合理性があるかどうかを検討する必要があるでしょう。
もっとも,多くの場合,固定残業代制度の中途での導入は,残業代請求対策として導入されたものにすぎないことが多く,合理性がないことが大半です。
基本給と固定部分が明確に区別されていること
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度を採用した場合,どの部分が割増賃金算定の基礎賃金となる部分なのか,どのくらいまでが固定とされているのかが分からなければ,労働者は,割増賃金を計算することすらできず,はたして適正な割増賃金が支払われているのかどうかさえ分かりません。
したがって,固定残業代制度が有効となるためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することができるようになっていなければなりません(高知県観光事件判決,最一小判平成24年3月8日等)。
たとえば,労働契約書,就業規則または給与明細書などによって,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別できるようになっているかどうかを確認する必要があります。
固定超過部分の割増賃金を支払う旨の明示
固定残業代(定額残業代・みなし残業代)制度の有効性について判断した小里機材事件判決(最一小判昭和63年7月14日)の原審では,前記通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とが区別されているだけでなく,労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていることも,有効要件として必要であることが判示されており,上記小里機材事件最高裁判決もそれを是認しています。
もっとも,仮にこのような超過部分の割増賃金を支払うことが合意されていなくても,その超過部分の割増賃金は,当然に支払われなければならないと解されています。
そのため,当然のことであり,あえて合意する必要はないとも考えられます。
実際,前記高知県観光事件や最一小判平成24年3月8日では,この超過部分を支払う旨の合意がされていることまでは要件として挙げていません。
ただし,前記最一小判平成24年3月8日の桜井裁判官補足意見では,「さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる」として,労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていることも有効要件とすべきである旨を述べられています。
労働者側としては,この要件についても主張をしておくべきでしょう。
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- 最二小判平成6年6月13日(高知県観光事件判決)
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- 最一小判昭和63年7月14日(小里機材事件判決)
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