事業場外みなし労働時間制の場合でも残業代請求できるか?
事業場外みなし労働時間制を採用している場合には,残業代などの割増賃金を一切請求できないのでしょうか。
ここでは,事業場外みなし労働時間制の場合にも割増賃金を請求できるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
事業場外みなし労働時間制の場合でも残業代請求できるか?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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事業場外みなし労働時間制の効果
労働者が事業場外で労働をしているため,実労働時間を把握することが困難である場合,使用者は,事業場外みなし労働時間制を採用することができます。
事業場外みなし労働時間制を適法に導入している場合,労働者の事業場外における労働については,所定労働時間労働したものとみなすことができるようになります。
たとえば,所定労働時間が8時間であれば,労働者が何時間働いていたとしても,事業場外労働の労働時間は8時間であるというようにみなすことができます。
したがって,現実には,事業場外の労働が5時間であったとしても8時間とみなされることになりますし,逆に,8時間以上労働していた場合でも,労働時間は8時間とみなされることになります。
事業場外みなし労働時間制の場合の残業代請求
前記のとおり,事業場外みなし労働時間制が採用されている場合,所定労働時間労働したものとみなされることになります。
たとえば,所定労働時間が休憩時間を除いて9時間であれば,そもそも所定労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超えていますので,8時間を超える1時間分については時間外労働となります。
したがって,この1時間については,時間外労働に対する割増賃金(残業代)を請求できることになります。
また,事業場外における労働が,所定労働時間を超えて労働することが通常必要となる場合には,その通常必要となる労働時間(通常必要時間)労働したものとみなすことができるとされています。
したがって,その事業場外労働が,たとえば,通常10時間かかるものであれば,事業場外の労働については10時間労働したものとみなされることになりますので,この場合には,法定労働時間を超える2時間分は時間外労働となり,それに対しては残業代が支払われることになります。
しかし,所定労働時間が法定労働時間(1日8時間)未満であれば,事業場外みなし労働時間制が採用されている場合には,時間外労働とはならないということになります。
時間外労働にはならないということは,残業代も請求できないということです。
実際,通常必要時間は8時間以内とはいえないにもかかわらず,8時間以内の所定労働時間をみなし労働時間として,残業代の支払いを免れようとする例が少なくありません。
この場合,本当は法定労働時間を超えて働いくのが通常であるのに,事業場外みなし労働時間制があるために,残業代を請求できないということなってしまい,労働者の保護を図ることを目的とする労働基準法の趣旨に反してしまいます。
そこで,このような場合に残業代などの割増賃金を請求するためには,以下の2つの方法が考えられます。
- 事業場外労働の通常必要時間が,法定労働時間を超える時間数であることを争う方法
- そもそも事業場外みなし労働時間制の適用されない(無効である)ということを争う方法
時間外労働を含む通常必要時間を争う方法
事業場外みなし労働時間制において残業代請求をするための方法の1つとして,その事業場外労働に通常必要となる労働時間(通常必要時間)が法定労働時間を超える労働時間数であるということを争う方法が考えられます。
たとえば,その事業場外労働は,通常10時間かかるものであるから,通常必要時間は10時間であるということを主張立証することによって,みなし労働時間を10時間としてもらうという方法です。
10時間労働したものとみなすということになれば,8時間を超える部分は時間外労働となりますから,その8時間を超える2時間分については残業代を請求することができるということになります。
この方法ですと,事業場外労働をしたときには,常に一定時間分の残業代(上記の例だと2時間分の残業代)が支払われるということになります。
通常必要時間を主張立証するには,事業場外での労働の内容やその労働にかかる時間などを主張立証していくことが必要となりますが,これは,実際に働いていた時間(実労働時間)を主張立証するのとほとんど変わりません。
つまり,タイムカードなど労働時間を記載した書類等があればそれをもとに主張立証していくことになりますし,それがなければ,パソコンのログや管理記録などで労働時間を明らかにしていくことになります。
事業場外みなし労働時間の無効を争う方法
事業場外みなし労働時間制において残業代などの割増賃金請求をするためのもう1つの方法は,端的に,事業場外みなし労働時間制の要件を満たしていないから無効であるとして,事業場外みなし労働時間制の適用を否定するという方法です。
事業場外みなし労働時間制は要件がなかなか厳しく,完全に要件を満たして運用している使用者が少ないため,一般的には,こちらの主張をすることが多いかと思います。
具体的には,事業場外みなし労働時間制の要件である「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかを争うということになるでしょう。
たとえば,以下の判断要素に該当する事実を主張立証していくことになります。
- 使用者による事前の具体的指示があったこと
- 労働者から事前の業務予定報告などをしていたこと
- 事業場外労働における責任者・時間管理者が指定されていたこと
- 労働者から事後の業務内容報告などをしていたこと
- 始業・終業時刻が指定されていたこと
- 事業場外労働の前後に出社していたこと
- 携帯電話などによって業務指示または業務報告がされていたこと
- 事業場外労働について労働者に裁量がなかったこと
現在では,携帯電話や電子メールなど,リアルタイムで通信できる手段がいくつもありますから,使用者も労働者の労働時間を把握することが容易です。
そのため,「労働時間を算定し難いとき」といえる場合は,非常に限られてきます。
事業場外みなし労働時間制が適用されないということになれば,通常の場合と同様に残業代を計算して請求することになります。
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