使用者にタイムカード等の開示義務はあるのか?
未払い残業代等を請求するためには,証拠としてタイムカードがあると非常に有利ですが,使用者から開示してもらう必要があるという場合があります。
ここでは,使用者にタイムカードを開示する義務はあるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
使用者にタイムカード等の開示義務はあるのか?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
※東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所における未払い残業代等請求のお取り扱いについては,未払い残業代等請求の経験豊富な弁護士をお探しの方へをご覧ください。
タイムカードの必要性・重要性
未払い残業代等請求においては,特に労働時間の立証が問題となる場合が多いと思われます。その場合,労働時間を立証するための証拠として有力な資料はタイムカードです。
もちろん,タイムカードがあれば,それに打刻されている時間が裁判でもすべてそのまま認められるというわけではありませんが,労働時間の認定において最も重要視される証拠となることは間違いありません。
基本的には,タイムカードに打刻されている時間を基礎として,それに追加訂正するという形で認定が行われていくことになるでしょう。
そうすると,タイムカードがあるのかないかで結論が変わってくるということもあり得ます。したがって,タイムカードを入手できるかどうかは,未払い残業代等請求において,実に重要な問題といえます。
タイムカードをあらかじめコピーしておけるのであれば,是非そうしておくべきでしょう。
というのも,後からタイムカードを開示してくれと求めても,残業代等を請求されるのをおそれて,使用者・会社側が開示を拒否してくるということが,少なからず起こるからです。
ただし,労働者ご本人で開示を請求した場合には拒絶されたとしても,後から,労基署の監督官や弁護士が開示を要求すれば,開示をしてくれるという場合もあります。
それでも開示をしてこないとしても,訴訟や労働審判を提起すれば,裁判官から使用者・会社に対して資料を提出するようにと促してくれますので,この時点で,大半の場合は開示に応じてくるはずです。
場合によっては,それ以前に証拠保全手続などを行い,その手続き中に開示されるということもあるかもしれません。
使用者のタイムカード等開示義務
前記のとおり,最終的には開示に応じてくる場合が多いとはいえ,なんだかんだと理由をつけてタイムカードを開示してこない使用者・会社が少なくないのは事実です。
また,稀ではあるでしょうが,頑として開示を拒絶するという悪質な使用者もいないわけではありません。
そこで,使用者・会社にタイムカードを開示する法的な義務はないのかということが問題となってきます。開示義務があるのであれば,容易に拒絶できなくなるからです。
この点について明確に定めた法令はありません。そもそも,使用者には,タイムカードを作成する義務も法令上課されていないので,当然といえば当然かもしれません。
しかし,未払い残業代等を請求するためには,タイムカードは重要な証拠です。これがなければ,適正な残業代等の賃金が支払われなくなり,労働基準法の理念を害することになってしまうおそれがあります。
そこで,仮に法令上は規定がないとしても,一定の範囲で法的な開示義務を認める必要があるように思います。
使用者のタイムカード開示義務を認めた裁判例
まだ最高裁判例はありませんが,下級審裁判例には,タイムカードの開示義務があることを認めたものがあります。
大阪地方裁判所平成22年7月5日判決(医療法人大正会事件)もその1つです。同判決は以下のとおり判示しています。
労基法は,労働時間について罰則による厳格な規制下に置くとともに,使用者自らが労働時間の把握をすべきものとし,さらに,使用者に対して賃金その他労働関係に関する重要な書類についての保存義務を課しており,その趣旨は,労働者保護の観点から,労働時間について契約当事者間で紛議が生じた場合には,これを使用者が作成し,保管している労働関係に関する書類によって明らかにし,労働者と使用者との間の労働条件や割増賃金等に関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。
このような労基法の趣旨に加えて,一般に労働者は,労働時間を正確に把握できない場合には,発生している割増賃金の支払いを求めることができず,大きな不利益を被る可能性があるのに対し,使用者がタイムカード等の機械的手段によって労働時間管理をしている場合には,労働時間に関するデータを開示することは容易であり,使用者に特段の負担は生じないことにかんがみると,使用者は,労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として,信義則上,労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく,労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り開示すべき義務を負うと解すべきである。そして,使用者がこの義務に反して,正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり,特段の事情なく開示を拒絶したときは,その行為は違法性を有し,不法行為を構成するものというべきであり,原告の請求には理由があるから,被告は原告に対して慰謝料の支払義務を負うというべきである。
上記のとおり,大正会事件判決は,労働契約に付随する信義則上の義務として,タイムカードの打刻を適正に行わせる義務と,原則として労働者に対してタイムカード等を開示すべき義務とがあるとしています。
したがって,タイムカードの開示義務が問題となった場合には,上記大正会判決を利用することができるでしょう。
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