労働時間・休憩・休日規定の適用が除外される労働者とは?
労働基準法41条は,一定の労働者に対しては,労働時間・休憩・休日の規定が適用されない旨を定めています。これを「適用除外」と呼んでいます。具体的には,農業従事者・水産業従事者,管理監督者・機密事務取扱者,監視労働従事者・断続的労働従事者(監督官庁の許可を受けた場合に限る。)が適用除外の対象となります。
ここでは,この労働時間・休憩・休日規定の適用が除外される労働者とはどのような労働者のことを指すのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
労働時間・休憩・休日規定の適用が除外される労働者とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
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労働時間・休憩・休日規定の適用除外
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
① 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
② 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
③ 監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの
労働基準法は,労働者の過重労働を防止するため,労働時間を原則として1日8時間および1週40時間以内でなければならないとし,これを超える時間外労働に対しては割増賃金(残業代)を支払わなければならないと定めています。
また,1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上の,1日の労働時間が8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を付与しなければならないことも定めています。
さらに,休憩だけではなく,最低でも1週間に1回(変形週休制の場合は4週間に4回)以上の法定休日を与えなければならないとし,この法定休日労働に対しては割増賃金(休日手当)を支払わなければならないと定めています。
これら労働時間・休憩・休日の規定は労働基準法の大原則です。しかし,これらの規定には重大な例外があります。それが,上記労働基準法41条の規定です。
すなわち,労働基準法41条は,同条各号に定める労働者に対しては,労働時間・休憩・休日の規定が適用されないことを定めています。「適用除外」と呼ばれる規定です。
したがって,適用除外の労働者については,1日8時間・週40時間の労働時間規制はなくなるため,時間外労働というものがくなくなり,残業代を支払わなくてもよいということになります。
同様に,休憩や休日を付与しなくてもよく,休日割増賃金を支払わなくてもよいことになります。
※なお,深夜労働の規定は適用除外されません。したがって,労働基準法41条各号に該当する場合であっても,深夜労働をすればそれに対する割増賃金(深夜手当)の支払いは必要です。
この労働基準法41条の対象となるのは,以下の業務に従事する労働者です。
- 労働基準法別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する労働者(1号)
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある労働者(管理監督者)(2号前段)
- 事業の種類にかかわらず機密の事務を取り扱う労働者(機密事務取扱者)(2号後段)
- 監視労働に従事する労働者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの(3号)
- 断続的労働に従事する労働者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの(3号)
>> 割増賃金とは?
別表第一第6号または第7号に掲げる事業従事者
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
① 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者労働基準法 別表第一
⑥ 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植,栽培,採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
⑦ 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産,養蚕又は水産の事業
前記のとおり,別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する労働者に対しては,時間外労働や法定休日労働をさせたとしても,使用者は割増賃金を支払わなくてもよいとされています。
農業や水産業においては,事業の性質上,天候などの自然的条件によって労働時間等が大きく左右されます。人間ではコントロールできない要素が大きく,労働時間規制や週休制になじまない性質の事業といえます。
そこで,農業や水産業に従事する労働者に対しては,労働時間・休憩・休日の規定の適用が除外されています。
なお,林業については,農業や水産業のように自然的条件によって業務をする時間等が左右されるとはいえないので,適用除外には当たらないとされています。
管理監督者
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
② 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
前記のとおり,事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある労働者に対しては,時間外労働や法定休日労働をさせたとしても,使用者は割増賃金を支払わなくてもよいとされています。
この「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」のことを「管理監督者」と呼んでいます。
もっとも,法律上は管理監督者に該当するとはいえないにもかかわらず,会社の職制上の管理職であるということだけを理由に管理監督者であると決めつけて残業代を支払わないという場合もあります。
いわゆる「名ばかり管理職」「名ばかり店長」と呼ばれる問題です。
ただし,実際の裁判実務では,管理監督者であるか否かは名目ではなく,実質的に判断すべきとされ,その判断基準もほぼ固まっています。具体的には,以下の判断基準が用いられるのが通常です。
- 経営者と一体的な立場であるといえるほど重要な職務と権限を付与されていること
- 労働時間等の枠を超えて事業活動することがやむを得ないといえること
- 賃金等労働条件について一般労働者に比べて優遇装置が取られていること
実際の裁判で管理監督者性が認められるのはかなり稀なケースです。
>> 管理監督者とは?
機密事務取扱者
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
② 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
前記のとおり,事業の種類にかかわらず機密の事務を取り扱う労働者に対しては,時間外労働や法定休日労働をさせたとしても,使用者は割増賃金を支払わなくてもよいとされています。
「機密の事務を取り扱う者」のことを「機密事務取扱者」などと呼ぶことがあります。
機密事務取扱者とは,「秘書その他職務が経営者又は監督若しくは管理の地位にある者の活動と一体不可分であって,出社退社などについて厳格な制限を受けない者」のことをいうとされています(昭和22年9月13日発基第17号)。
必ずしも企業秘密書類を取り扱う業務だけを意味するものではありません。
監視労働従事者
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
③ 監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの
労働基準法施行規則 第34条
法第41条第3号の規定による許可は,従事する労働の態様及び員数について,様式第十四号によつて,所轄労働基準監督署長より,これを受けなければならない。
前記のとおり,監視労働に従事する労働者で,使用者が行政官庁の許可を受けたものについては,時間外労働や法定休日労働をさせたとしても,割増賃金を支払わなくてもよいとされています。
監視労働者については,通常労働者と比べて労働密度が疎であるため,身体の疲労または精神的緊張の少なく,通常労働者と同様の労働時間・休憩・休日の規定を適用しなくても労働者保護に欠けることがないという理由から適用除外とされています。
監視労働者とは,原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし,常態として身体の疲労または精神的緊張の少ない労働者のことをいうと解されています(昭和22年9月13日発基第17号,昭和63年3月14日基発150号等)。
したがって,監視業務であっても,交通関係の監視・プラント等の計器類の監視・危険な場所での監視など身体に危険がありまたは精神的に緊張を要する監視業務は,適用除外となる監視労働には含まれません。
ただし,監視労働者であっても,行政官庁(労働基準監督署長)の許可を受けていない場合には,適用除外とはされません。
断続的労働従事者
労働基準法 第41条
この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
③ 監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの
労働基準法施行規則 第23条
使用者は,宿直又は日直の勤務で断続的な業務について,様式第十号によつて,所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は,これに従事する労働者を,法第32条の規定にかかわらず,使用することができる
労働基準法施行規則 第34条
法第41条第3号の規定による許可は,従事する労働の態様及び員数について,様式第十四号によつて,所轄労働基準監督署長より,これを受けなければならない。
前記のとおり,断続的労働に従事する労働者で,使用者が行政官庁の許可を受けたものについては,時間外労働や法定休日労働をさせたとしても,割増賃金を支払わなくてもよいとされています。
また,労働基準法施行規則23条は,宿日直業務のうちで断続的な業務についても,断続的労働と同様に扱っており,行政官庁の許可を受けたものについては適用除外としています。
断続的労働についても,監視労働の場合と同様,通常労働者と比べて労働密度が疎であるため,身体の疲労または精神的緊張の少なく,通常労働者と同様の労働時間・休憩・休日の規定を適用しなくても労働者保護に欠けることがないという理由から適用除外とされています。
断続的労働とは,作業自体が本来間歇的に行われるものであるため,作業時間が長く継続することなく中断し,しばらくして(手待時間をはさんで)再び同じような態様の作業が行われ,また中断する,というように繰り返される労働のことをいいます。
断続的労働が適用除外とされる趣旨は,監視労働と同様,通常労働と比べて身体の疲労または精神的緊張の少ないことにあります。
したがって,労働および手待時間の身体疲労または精神的緊張が高いものは,断続的業務であっても,適用除外の対象となる断続的労働には含まれません。
ただし,断続的労働者であっても,行政官庁(労働基準監督署長)の許可を受けていない場合には,適用除外とはされません。
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