管理監督者に関する日本マクドナルド事件判決(東京地判平成20年1月28日)とは?
残業代を支払わなくてよい管理監督者であるかどうかを判断した有名な裁判例として,日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)があります。
ここでは,この日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)について,東京 多摩 立川の弁護士がご説明いたします。
管理監督者に関する日本マクドナルド事件判決(東京地判平成20年1月28日)とは?
(著者:弁護士 志賀 貴 )
※東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所における未払い残業代等請求のお取り扱いについては,未払い残業代等請求の経験豊富な弁護士をお探しの方へをご覧ください。
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決
労働基準法41条2号は,管理監督者の立場にある労働者に対しては,労働時間・休日・休憩に関する規制が適用されず,時間外労働に対する割増賃金(残業代)や休日労働に対する割増賃金(休日手当)を支払わなくてもよいと規定しています。
そのため,労働者の方による未払い残業代等請求においては,この管理監督者性が争われることが少なくありません。
そこで問題となるのは,当該労働者の方が本当に上記労基法41条2号の管理監督者に該当しているのかどうかという点です。
実は,この管理監督者性の判断基準については,まだ最高裁判所の裁判例がないため,完全に確立した判断基準がないというのが現状です。
もっとも,管理監督者性の判断基準については,行政通達や下級審裁判例においていくつかの基準が設けられており,実務的には,これらの通達や下級審裁判例を参考として,ある程度の判断基準が定まってきているといってよいでしょう。
この残業代を支払わなくてよい管理監督者に当たるかどうかの判断を示した下級審裁判例の1つに,東京地方裁判所平成20年1月28日判決があります。
一般的には,日本マクドナルド割増賃金請求事件判決として,マスコミなどの報道がなされていますので,そちらの名称の方が知られているでしょう。
名ばかり管理職という言葉が広く知られるようになったのも,この事件判決からかもしれません。
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決の示した判断基準
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)は,以下のように判示しています(管理監督者性に関する規範部分のみ抜粋)。
使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条),労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないし(同法34条1項),毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないが(同法35条1項),労働基準法が規定するこれらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法1条2項),この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。
しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず,これを採用することはできない。
>> 日本マクドナルド割増賃金請求事件判決の原文(裁判所サイトから)
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決では,管理監督者性について,以下の判断基準を示しています。
- 職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか(第1の基準)
- その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か(第2の基準)
- 給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か(第3の基準)
これらの規範は,どれか1つの規範でも管理監督者性を否定する方向に働けば管理監督者性が否定されるとかいうものではなく,これらに関わる事実総合的に考慮して判断することになります。
>> 管理監督者性の判断基準
第1の基準
第1の基準は,その労働者がどの程度企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているかを問題としています。事業経営に関わる程度が高ければ高いほど,管理監督者性を肯定する方向にいきます。
なお,この判決の特殊性は,この事業経営への関与度の基準について,「労務管理を含め」としていること,つまり,これは逆にいうと,労務管理以外の分野においてでも,事業経営への関与度が高ければ管理監督者となり得るという判断をしているところであると思います。
労働者側としては,職務内容・職務権限・職務上の責任などがどのようになっていたかを主張立証した上で,それらからすれば事業経営に関与していたとはいえないということを主張していくことになるでしょう。
第2の基準
第2の基準は,勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるかどうかという点です。
勤務態様が労働時間等の規制になじまないものであればあるほど,管理監督者性を肯定する方向に近づいていくことになります。
労働者側としては,勤務態様を主張立証し,そのような勤務態様であれば,労働時間を定めて労働させたとしても何ら不都合はないことや労働時間の管理をすることすることも可能であること,そして実際に労働時間が管理されており,出退勤の自由がなかったことなどを主張していくことになります。
第3の基準
第3の基準は,管理監督者にふさわしい待遇がなされていたかどうかです。この裁判例は,この待遇の基準について,賃金や賞与などが管理監督者にふさわしいほどに支払われていたかどうかを基準としています。
もちろん,他の従業員に比べて優遇されているのであれば,管理監督者性を肯定する方向に近づきます。
もっとも,管理監督者にふさわしい待遇かどうかは,賃金などの金額だけではなく,出退勤の自由や休暇の付与などによっても判断が可能です。
そのため,賃金等のみをもって管理監督者にふさわしい待遇かどうかを判断している点については批判があるところです。
労働者側としては,この裁判例に従うならば,他の従業員の賃金や一時金などと自分の賃金や一時金などを主張立証し,両者を比較した場合に,残業代が出なくても容認できるほどの優遇を受けているわけではないこと,また,実際に労働時間が管理されていたことを主張していくことになるでしょう。
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決の事実認定と評価
前記の判断基準をもとにして,日本マクドナルド割増賃金請求事件判決では,以下の事実認定をしています。
職務権限等の基準(第1の基準)についての判断
マクドナルド事件判決では,前記第1の基準について,以下の事実認定を行っています。
ア 店長の権限等について
(ア) 店長は,アルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や,クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い,その昇給を決定する権限を有しているが,将来,アシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はないし(クルーが被告に入社を申し込む場合に,店長が,当該クルーの履歴書にコメントを記載することはある(乙6)),アシスタントマネージャーに対する一次評価者として,その人事考課に関与するものの,その最終的な決定までには,OCによる二次評価のほか,上記の三者面談や評価会議が予定されているのであるから,店長は,被告における労務管理の一端を担っていることは否定できないものの,労務管理に関し,経営者と一体的立場にあったとはいい難い。
(イ) 次に,店長は,店舗の運営に関しては,被告を代表して,店舗従業員の代表者との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限を有するほか,店舗従業員の勤務シフトの決定や,努力目標として位置づけられる次年度の損益計画の作成,販売促進活動の実施等について一定の裁量を有し,また,店舗の支出についても一定の事項に関する決裁権限を有している。
しかしながら,本社がブランドイメージを構築するために打ち出した店舗の営業時間の設定には,事実上,これに従うことが余儀なくされるし,全国展開する飲食店という性質上,店舗で独自のメニューを開発したり,原材料の仕入れ先を自由に選定したり,商品の価格を設定するということは予定されていない(甲41,47)。
また,店長は,店長会議や店長コンベンションなど被告で開催される各種会議に参加しているが,これらは,被告から企業全体の営業方針,営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほかは,店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって,その場で被告の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではないし(証人P5),他に店長が被告の企業全体の経営方針等の決定過程に関与していると評価できるような事実も認められない。
(ウ) 以上によれば,被告における店長は,店舗の責任者として,アルバイト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定,販売促進活動の企画,実施等に関する権限を行使し,被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。
前記判決は,第1の基準の判断として,まず上記(ア)において,店長の人事に関する権限についての評価をしています。
それによれば,マクドナルド店長には,アルバイト従業員(クルー,スウィングマネージャー)の採用,時給額の決定,クルーからスウィングマネージャーへの昇格,昇給の決定に関する権限があるものの,アルバイトでない社員の採用の決定権限はないことから,店長が労務管理の一端をになっているとはいえ,労務管理に関し経営者と一体的立場にあったとはいえないとしています。
店舗の経営に関する権限については,店長には時間外労働などについて店舗従業員の代表者と協定を締結する権限があり,かつ,勤務シフトの決定,次年度損益計画の作成,販促活動の実施について裁量権もあることを認めています。
しかし,マクドナルド全体で決定された店舗の営業時間や方針に従わざるを得ないこと,独自メニューの開発,原材料仕入れ先の選定,商品価格に設定などの権限は与えられていないことから,店長には,マクドナルド全体の経営方針等の決定過程に関与しているともいえないとしました。
そして,それらのことを併せて考えると,店長の職務権限は店舗内に限られるものにすぎないから,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められないと判断しています。
勤務態様の基準(第2の基準)についての判断
マクドナルド事件判決では,前記第2の基準について,以下の事実認定を行っています。
イ 店長の勤務態様について
(ア) 店長は,店舗従業員の勤務シフトを決定する際,自身の勤務スケジュールも決定することとなるが,各店舗では,各営業時間帯に必ずシフトマネージャーを置くこととされているので,シフトマネージャーが確保できない営業時間帯には,店長が自らシフトマネージャーを務めることが必要となる。
原告の場合,自らシフトマネージャーとして勤務するため,同年7月ころには30日以上,同年11月から平成17年1月にかけては60日以上の連続勤務を余儀なくされ,また,同年2月から5月ころにも早朝や深夜の営業時間帯のシフトマネージャーを多数回務めなければならなかった(甲4,原告本人)。その結果,後記第3,3(1)で認定するとおり,時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど,その労働時間は相当長時間に及んでいる。
店長は,自らのスケジュールを決定する権限を有し,早退や遅刻に関して,上司であるOCの許可を得る必要はないなど,形式的には労働時間に裁量があるといえるものの,実際には,店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ(原告や証人P2の試算では,月150時間程度となっている。甲44,50),上記のとおり,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の勤務態勢上の必要性から,自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから,かかる勤務実態からすると,労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
(イ) この点,被告は,原告の労働時間が長時間に及んだのは,部下とのコミュニケーションが不足するなどして,シフトマネージャーを務めることができるスウィングマネージャーの育成ができなかったことが原因であるなどと主張する。
しかしながら,店舗運営に必要な数のシフトマネージャーが確保できていない場合に,店長が自らシフトマネージャーとして勤務することで 労働時間が長期化することは,原告に限ったことではなく,他の店長についても生じている現象である(乙35,証人P4)。原告の勤務状態が,上記の状況にまで及んだことについては,被告が指摘するとおり,スウィングマネージャーの育成に失敗したという側面があることは否定できないものの(証人P1,同P3),程度の差はあれ,これは,被告における店長が,他の従業員からシフトマネージャーを確保できなければ,自らシフトマネージャーとして勤務することでその不足を補うべき立場にいるという被告の勤務態勢上の事情から不可避的に生じるものであり,専ら原告個人の能力の不十分さに帰責するのは相当でない。
なお,被告は,店長が特定の営業時間帯のシフトマネージャーを自店舗の従業員から確保できない場合には,自らシフトマネージャーを務め るという方法以外に,他店から一時的にスウィングマネージャーを借りるという方法もあると主張するが,原告の場合には,原告が要請しても,他店から円滑にスウィングマネージャーを借りることができていた状況にはなかったと認められるし(証人P1,原告本人),上記の原告の勤務状況からすると,原告が店長を務めていた店舗でのシフトマネージャーの不足の程度は,他店からスウィングマネージャーを一時的に借りることで改善される状況ではなかったといえる。
(ウ) また,被告は,店長が行う労務管理,店舗の衛生管理,商圏の分析,近隣の商店街との折衝,店長会議等への参加等の職務は,労働時間の規制になじまないものであると主張する。
しかしながら,前記第3,2( 3)ア記載のとおり, 店長は,被告の事業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく,各種会議で被告から情報提供された営業方針,営業戦略や,被告から配布されたマニュアル(甲45)に基づき,店舗の責任者として,店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから,かかる立場にある店長が行う上記職務は,特段,労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容,性質であるとはいえない。
日本マクドナルド事件では,店長の勤務態様についても詳細な事実評価をしています。
事実認定によると,マクドナルドでは,各営業時間に必ずシフトマネージャーと呼ばれる店舗の各営業時間帯に商品の製造,販売を総指揮する者を置かなければならないとされていました。このシフトマネージャーは,アルバイト従業員であるスウィングマネージャーが努めることが可能ですが,スウィングマネージャーが確保できない場合には,店長が自らシフトマネージャーを努めなければならない場合もあったとのことです。
この点については,被告(マクドナルド側)から,スウィングマネージャーを育成できなかったのは原告の能力の問題であるとか,他の店舗からスウィングマネージャーの応援を呼ぶことも可能であったとかの反論がなされているようですが,マクドナルドの現実的なシステム的な問題があることを指摘して,それらの反論を一蹴しています。
店長は,遅刻や早退について,10店舗ほどを管理する各店舗店長の上司であるオペレーションコンサルタント(OC)の許可を得る必要はないので,形式的にみれば出退勤の自由があるようにみえます。
しかし,上記のような事情から,本件原告(店長)は,スウィングマネージャーが確保できないために自らシフトマネージャーも務めなければならなくなり,その結果,長期間・長時間の労働を余儀なくされている状況にあったことを認定しました。
そして,このような事実と,第1の基準の判断で示されたとおり,店長には経営者と一体的立場で事業遂行できるほどの権限はなく,店舗内での職務権限しかないことも併せて考えると,店長が行う職務は,特段,労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容,性質であるとはいえないと判断しました。
処遇の基準(第3の基準)についての判断
ウ 店長に対する処遇について
(ア) 証拠(乙60)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年において,年間を通じて店長であった者の平均年収は707万184円(この額が前記第3,2( )カ(イ)記2載のインセンティブプランからの支給額を含むのであるか否かは不明であるが,一応含まないものとして検討する)で,年間を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者の平均年収は590万5057円(時間外割増賃金を含む)であったと認められ,この金額からすると,管理監督者として扱われている店長と管理監督者として扱われていないファーストアシスタントマネージャーとの収入には,相応の差異が設けられているようにも見える。
しかしながら,前記第3,2(2)カ(ア)で認定したとおり,S評価の店長の年額賃金は779万2000円(インセンティブを除く。以下同様),A評価の店長の年額賃金は696万2000円,B評価の店長の年額賃金は635万2000円,C評価の店長の年額賃金は579万2000円であり,そのうち店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は,下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになる。また,店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は,ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの,その差は年額で44万6943円にとどまっている(なお,被告の主張によると,店長の年額賃金には深夜割増賃金相当額(定額)として16万8000円(月額1万4000円×12)が含まれていることになるが(就業規則15条),後記のファーストアシスタントマネージャーの月平均時間外労働時間に照らすと,深夜労働に対する賃金を除いた比較では,その差はより少額になるものと推認される)。
また,証拠(甲54)によると,店長の週40時間を超える労働時間は,月平均39.28時間であり,ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ,店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると,上記検討した店長の賃金は,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては,十分であるといい難い。
(イ) また,被告では,前記第3,2(2)カ(イ)で認定した各種インセンティブプランが設けられているが,これは一定の業績を達成したことを条件として支給されるものであるし(したがって,全ての店長に支給されるものではない),インセンティブプランの多くは,店長だけでなく,店舗の他の従業員もインセンティブ支給の対象としているのであるから,これらのインセンティブプランが設けられていることは,店長を管理監督者として扱い,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除していることの代償措置として重視することはできない。
(ウ) なお,仮に,前記(ア)で検討した店長の平均年収が,上記のインセンティブプランに基づき支給されたインセンティブを含むものであれば,被告における店長の賃金が管理監督者に対する待遇として不十分であることは,一層明らかであるといえる。
日本マクドナルド事件では,店長に対する処遇についても詳細な検討が加えられています。
同判決では,形式上,店長とファーストアシスタントマネージャー(管理監督者ではないが店長に次ぐランクにある従業員)には賃金面で相応の差異があることを認めつつも,実質的な店長の勤務実態を考慮すると,実質的には店長とファーストアシスタントマネージャーでは賃金面でほとんど異ならないことを推認しています。
また,インセンティブ報酬は,店長以外の従業員にも支給される場合があったことからすると,店長を管理監督者として扱うための代償的な措置としては認められないともしています。
そして,これらの事情からすると,店長を管理監督者として扱うための待遇としては不十分であると判断しました。
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決の結論・まとめ
エ 以上によれば,被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認められない。
したがって,原告に対しては,時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである。
これまで述べてきたように,日本マクドナルド事件判決は,管理監督者性について3つの判断基準を示したうえで,具体的事実を認定した上で,3つの基準のどれについても,マクドナルドの店長が管理監督者と認められる方向での事実が認められないと判断しました。
残業代等を支払わなくてよい管理監督者の判断の方法として参考となる裁判例です。
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