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ファイル共有ソフトによる著作権侵害

BitTorrentユーザーの損害賠償責任を認めた知財高裁令和4年4月20日判決の解説

BitTorrent(ビットトレント)を利用したことにより著作権侵害があったものとして,著作者によるユーザーに対する損害賠償請求を認めた裁判例として,知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(原審:東京地方裁判所令和3年8月27日判決)があります。

このページの以下では,BitTorrentユーザーの損害賠償責任を認めた知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決(原審:東京地方裁判所令和3年8月27日判決)について,解説します。

なお,判決書の原文は,以下のページをご確認ください。

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本判決の事案と結論

知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決の事案は,アダルト動画の制作会社から,Bittorrent(ビットトレント)を利用して同社の制作したアダルト動画をアップロードしたことにより著作権を侵害されたとして損害賠償請求を受けたビットトレントユーザー11名が,制作会社を相手取って,損害賠償債務は存在しないことの確認を求めたという事案です。

第一審(原審)判決(東京地方裁判所令和3年8月27日判決)では,11名のうち2名については債務がまったく存在しないことが確認され,残り9名についてはそれぞれ1万円から9万円ほどの損害賠償支払義務が存在することが確認されました。

この第一審判決に対して,原告らと被告の双方が不服申立て(控訴)し,それによって開始された控訴審における判決が,知財高判令和4年4月20日です。

本件は,著作権者が損害賠償を請求する訴訟ではなく,請求を受けたユーザーが損害賠償債務は存在しないことの確認を求める訴訟です。

したがって,一審原告(控訴人)はユーザー側,一審被告(被控訴人)が著作権者である制作会社ということになります。

本判決でも,第一審判決と同じく,ユーザー11名のうち2名については債務がまったく存在しないことが確認され,残り9名については損害賠償債務が存在することが確認されました。

ただし,本判決では,9名それぞれの損害賠償額が第一審(原審)判決よりも減額されています。具体的には,各原告の債務額は以下の金額と認定されています。

  • X1  3万5668円(原審:3万6932円)
  • X2  控訴審判決なし(原審:5万9660円)
  • X3  3万8078円(原審:3万9367円)
  • X4  2万4100円(原審:9万4345円)
  • X5  債務無し(原審:債務無し)
  • X6  2万5546円(原審:2万8190円)
  • X7  1万7834円(原審:8万9835円)
  • X8  1万5906円(原審:1万6726円)
  • X9  5万9892円(原審:6万1445円)
  • X10 5万5056 円(原審:5万9738円)
  • X11 債務無し(原審:債務無し)

「BitTorrentの仕組み」に関する認定

本件で問題となっているファイル共有ソフトのBitTorrentの仕組みについて,知財高判令和4年4月20日では,以下のように認定されています(控訴審判決書5ページ以下)。

知財高裁は「BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワーク」であるとしています。

BitTorrentの「概要及び意義」

BitTorrentの「概要及び意義」については,原審の認定が維持されています。以下は,原審判決からの引用です(原審判決書6ページ)。

(ア) BitTorrentでは,特定のファイルを配布する場合,まず,当5 該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し,分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。当該ファイルのダウンロードを希望するユーザーは,ネットワークに参加して自らピアとなり,ピースをダウンロードするとともに,多数存在する他のユーザー(ピア)との間でお互いが保有するピースを授受することを通じ,分割された全てのピースをダウンロードした上で,それらを完全なファイルに復元することで,当該ファイルを取得することができる。
(イ) 完全な状態のファイルを持つユーザーは,「シーダー」と呼ばれる。目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが,ダウンロードが完了し,完全な状態のファイルを保有すると,当該ユーザーはシーダーとなり,今度は,リーチャーからの求めに応じて,当該ファイルをアップロードしてリーチャーに提供することになる。また,リーチャーは,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチ20 ャーと共有するためにアップロードする。すなわち,リーチャーは,目的のファイルをダウンロードすると同時に,他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置く仕組みとなっている。
(ウ) BitTorrentは,このようなユーザー相互間のデータの授受を通じて,ファイルを保管するためのサーバを必要とすることなく,大容量のファイルを高速で共有することを可能とするものである。
(以上につき,甲4,乙5の2〔2頁〕,弁論の全趣旨)

BitTorrentの「利用の手順」

BitTorrentの「利用の手順」について知財高裁は,以下のとおり認定しています(以下のうち(オ)以下は原審の認定が維持されているため,原審判決から引用しています。)。

(ア) BitTorrentを使用するには、ファイルをダウンロードするためのBitTorrentの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得する。トレントファイルには、目的のファイル本体のデータは含まれないが、分割されたファイル(ピース)全てのハッシュとともに、ピースを完全な状態のファイルに再構築するための情報や、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバのアドレスが記録されている。トレントファイルは、いわば、細分化されたピースを復元するための設計図のような役割を果たす。
(イ) ユーザーが入手したトレントファイルを自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、トラッカーと通信を行い、目的のファイル(ピース)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイル(ピース)のダウンロードを開始する。トラッカーは、シーダーやリーチャーの接続状態を監視してデータの流れを制御する管理サーバである。
(ウ) ユーザーは、ダウンロードした当該ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録される仕組みとなっている。これにより、自らがダウンロードしたファイル(ピース)に関しては、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(ピース)を提供しなければならないため、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態に置かれることになる。
(エ) ユーザーは、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや、再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。これにより、それまではリーチャーであった当該ユーザーは、以後はシーダーとして機能することになる。
(オ) ユーザーが特定のファイルについてダウンロードしたデータ容量とアップロードしたデータ容量の比率を「共有比」という。
(以上につき,乙5,6,弁論の全趣旨)

BitTorrentの「アップロードの終期」

BitTorrentの「アップロードの終期」については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書6ページ,原審判決書8ページ)。

BitTorrentは,インターネットを通じてデータの授受を行うものであるため,自己の端末がオフライン状態にあるか,通信相手が存在しない状態であれば,ファイルのアップロードは行われない。また,オンライン状態であっても,クライアントソフトを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアップロードされることはない。
(甲11,12,乙5,弁論の全趣旨)

BitTorrentの「匿名性」

BitTorrentの「匿名性」については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書6ページ,原審判決書8ページ)。

BitTorrentネットワークには匿名性はないため,ユーザーがトラッカーにアクセスすると,そのIPアドレスはトラッカー管理者に把握される。
(乙5の2〔4枚目〕)

「被告による原告らの特定に至る経緯」に関する認定

本判決(及び原審判決)の認定したところによると,被告(制作会社)が原告ら(ユーザー)を特定するに至った経緯は,以下のとおりとされています。

被告による原告らの特定に至る経緯の概略

被告が,平成30年6月1日から同月15日にかけて行った内部調査により,ハッシュから著作物の動画ファイルの一部を特定し,ビットトレントを利用して該当のファイルをアップロード・ダウンロードしているユーザーのIPアドレスを特定した。

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平成30年8月末から同年9月頃にかけて,被告が,TOKAIコミュニケーションズ等インターネットプロバイダ7社に対し,上記のIPアドレスについて発信者情報開示を請求した。

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平成30年9月から同年11月頃にかけて,上記プロバイダ各社が,それぞれユーザーである原告らに対し,発信者情報開示の意見照会書を送付した。

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意見照会書を受領した原告らが,上記プロバイダ各社に対し,発信者情報開示に同意する旨の回答をした。

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平成30年10月から11月にかけて,プロバイダ各社が,被告に対し,同意に基づき,原告らの氏名等の発信者情報を開示した。

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令和元年10月1日付けで,被告が,原告らに対し,著作権侵害を理由とした損害賠償請求(請求金額は,それぞれ約2000万円~1億6000万円)の通知書を送付した。

>> ファイル共有ソフトによる著作権侵害の法的責任追求の流れ

「著作権侵害及び共同不法行為性」に関する認定

本件において,被告(制作会社)は,原告(ユーザー)らがBitTorrent(ビットトレント)を利用して著作物である動画をダウンロードする際にアップロードも行っていることにより,被告の複製権・頒布権・送信可能化権を侵害していると主張しています。

また,被告は,原告らが各自でダウンロード・アップロードする行為が他のユーザーのダウンロード・アップロード行為と相まって著作権を侵害することを認識しつつダウンロード・アップロード行為に及んだものであるから,意思的関与が存在し,原告らには民法719条1項前段の共同不法行為が成立するとの主張もしています。

これに対し,原告らは,一部アップロードをしていたことは認めつつ,著作権侵害はないこと,共同不法行為は成立しないことを主張しています。

「原告らによる本件各ファイルのダウンロード」の認定

原告(ユーザー)らが,著作物ファイルをダウンロードしたといえるのかについては,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書14ページ,原審判決書20ページ)。

ア 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X7,原告X8,原告X9及び原告X10について
 本件各ファイルは,いずれも本件著作物の動画ファイルであることが認められるところ(甲10,乙2~4,8~10),前記前提事実によれば,①被告は,内部調査により,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信を行っている者のIPアドレスを把握したこと,②これに基づき,被告は,プロバイダ各社に対して,当該IPアドレスに係る発信者情報の開示請求を行ったこと,③その結果,プロバイダ各社から,本件ファイル1についてのIPアドレスに係る契約者として原告X1,原告X2及び原告X3の氏名の開示を,本件ファイル2についてのIPアドレスに係る契約者として原告X4,原告X7及びA8の氏名の開示を,本件ファイル3についてのIPアドレスに係る契約者として原告X9及び原告X10の氏名の開示をそれぞれ受けたことが認められる。
 これらの事実によれば,原告X1,原告X2及び原告X3が本件ファイル1を,原告X4,原告X8及び原告X7が本件ファイル2を,原告X9及び原告X10が本件ファイル3を,それぞれBitTorrentを通じて,ダウンロードしたとの事実を認めることができる(なお,原告X8について,プロバイダ契約の名義人はA8であるが,弁論の全趣旨に照らせば,契約回線を実際に使用していたのは原告X8であったと認めることができる。)。
イ 原告X6について
 原告X6がBitTorrentを通じて本件著作物の動画ファイルをダウンロードしたことは当事者間に争いがないところ,前記前提事実及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告X6が本件ファイル2をダウンロードした事実を認めることができる。
ウ 原告X5,原告X11について
 原告X5及び原告X11は,記録が残っていないとして,本件著作物の動画ファイルをダウンロードした事実自体を争っているところ,前記前提事実によれば,被告は,平成30年11月頃,プロバイダから原告X5及び原告X11の氏名につき発信者情報の開示を受けたとの事実が認められ,これによれば,被告は,上記開示請求に先立ち,被告の著作権を侵害するファイルの送受信が行われたIPアドレスとして,原告X5及び原告X11のIPアドレスを把握していたものと推認される。
 しかしながら、発信者情報開示請求に対する回答に当たるプロバイダ(株式会社ジェイコム東京又は株式会社ジェイコムイースト)作成の通知書(乙13の4・9)には、一審原告X5又は一審原告X11の氏名及び住所が記載されているものの、どのような権利侵害行為又はどのIPアドレスに関する情報の開示であったのかをうかがわせる記載はなく、また、同通知書に対応する発信者情報開示請求書は証拠として提出されておらず、その他上記各通知書がどのような照会に対する回答であったのかを認めるに足りる証拠はない。そして、一審被告が本件著作物以外にも著作権を有する著作物(動画)を複数保有していたことや、一審被告が、本件著作物についての侵害行為に係るものとして多くのIPアドレスを把握していたと推認されることに照らし、本件著作物以外の著作物や、一審被告の主張するIPアドレスとは異なるIPアドレスに基づく照会に対する回答であった可能性も否定できないことからすると、上記各通知書が、一審被告の主張する本件著作物の著作権侵害に係るものであったと認めるに足りない。また、乙15の5・11には、一審被告が行った、一審原告X5に よる平成30年6月30日から同年10月20日までの間のBitTorrent の利用状況及び一審原告X11による平成29年7月8日から平成30年8月12日までの間のBitTorrentの利用状況に係る調査結果が記載されているところ、これをみても、一審原告X5及び一審原告X11が、上記各期間に、BitTorrentを利用して本件著作物をダウンロードした事実を認めることはできない。一審被告は、一審原告X5及び一審原告X11が本件著作物をダウンロードしていた事実を裏付ける証拠として、控訴審において「調査結果一覧(抜粋)」(乙 17)、「陳述書」(乙19)及び「「別紙IPアドレス等一覧」と題する書面」(乙22)を提出したが、乙17及び乙22は一審被告が調査結果を踏まえて作成した文書であって調査結果そのものではないし、陳述書(乙19)は上記各プロバイダ以外のプロバイダに対する発信者情報開示請求について述べたものであって、本件著作物に係る一審原告X5及び一審原告X11の行為を裏付けるものとはいえない。 そうすると、一審原告X5及び一審原告X11が、本件著作物をダウンロードしたと認めるに足りる証拠はないというほかない。

上記のとおり,原告ら11名のうち9名については,プロバイダから著作物ファイルについてのIPアドレスの契約者として発信者情報開示されていることなどから,著作物ファイルをビットトレントを通じてダウンロードした事実が認められています。

他方,残り2名(X5,X11)については,著作物ファイルをビットトレントを通じてダウンロードした事実は認められないとされています。その理由として,以下のものが挙げらています。

  • 発信者情報開示通知書には氏名・住所は記載されているものの,どのような権利侵害行為またはどのIPアドレスに関する情報の開示であったのかをうかがわせる記載がなく,発信者情報開示請求書も提出されていないので,どのような照会に対する回答であったのかが不明であること
  • 被告は多数の著作物を保有し,多数のIPアドレスを把握していたと推認されるので,本件著作物以外の著作物や,被告主張のIPアドレスとは異なるIPアドレスに基づく照会に対する回答であった可能性が否定できないこと
  • その他著作物ファイルをビットトレントを通じてダウンロードした事実を認めるに足りる証拠はないこと

「権利侵害について」の認定

原告(ユーザー)らが,被告の著作権侵害をしたといえるのかについては,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書15ページ,原審判決書21ページ)。

ア 以上のとおり,原告X1,原告X2及び原告X3は本件ファイル1を, 原告X4,原告X6,原告X7及び原告X8は本件ファイル2を,原告X9及び原告X10は本件ファイル3を,それぞれ,BitTorrentを通じてダウンロードしたものと認められる(以下,ダウンロードを行ったと認められる上記各原告を「原告X1ら」という。)。
 そして,前記前提事実2(3)のとおり,BitTorrentは,リーチャーが,目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても,既に所持しているファイルの一部(ピース)を,他のリーチャーと共有するためにアップロード可能な状態に置く仕組みとなっていることに照らすと,原告X1らは,ダウンロードした本件各ファイルを同時にアップロード可能な状態に置いたものと認められる。
イ 前記前提事実のとおり,BitTorrentは,特定のファイルをピースに細分化し,これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で相互に共有及び授受することを通じ,分割された全てのファイル(ピース)をダウンロードし,完全なファイルに復元して,当該ファイルを取得することを可能にする仕組みであるということができる。
 これを本件に即していうと,原告X1らが個々の送受信によりダウンロードし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイルの一部(ピース)であったとしても,BitTorrentに参加する他のユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全な本件ファイル1~3のいずれかを取得し,また,自己がアップロード可能な状態に置いた本件ファイル1~3のいずれかの一部(ピース)と,他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余のピースとが相まって,原告X1ら以外のユーザーが完全な本件ファイル1~3のいずれかをダウンロードすることにより取得することを可能にしたものということができる。そして,原告X1らは,BitTorrentを利用するに際し,その仕組みを認識・理解し又は容易に認識・理解し得たのに認識・理解しないまま,これを利用したものと認めるのが相当である。
 以上によれば,原告X1らは,BitTorrentの本質的な特徴,すなわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し,これをインターネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより,ネットワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることを理解した上で又は容易に理解し得たのに理解しないまま,これを利用し,他のユーザーと共同して,本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。
 したがって,原告X1らは,いずれも,他のユーザーとの共同不法行為により,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。
ウ (ア) これに対し,原告らは,アップロード可能な状態に置いたファイルが全体のごく一部であり,個々のピースは著作物として価値があるものではないから,原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張するが,上記イで判示したとおり,原告X1らによる行為は,他のユーザーと共同して本件著作物を送信可能化したものと評価できるから,原告らの主張は採用することができない。
(イ) 原告らは,ファイルを送信する側は,自らがファイルをアップロード可能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘するが,原告X1らは,BitTorrentを利用するに当たって,前記前提事実(3)イ記載のような手続を踏み,各種ファイルやソフトウェアを入手している以上,BitTorrentの基本的な仕組みを理解していると推認されるのであって,とりわけ,BitTorrentにおいて,ユーザーがダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれることは,その特徴的な点であるから,これを利用した原告X1らがこの点を認識していなかったとは考え難い。
 仮に、一審原告X1らがこの点を認識していなかったとしても、自らがBitTorrentを利用して本件著作物を正当な権利者からダウンロードしているものではないことを当然に認識し得たことからすれば、BitTorrentを利用するに当たり違法な行為をしないよう慎重になるべきところ、雑誌やインターネットに掲載された記事などから容易にBitTorrentの仕組みを知ることができるのであるから、ダウンロードしたファイル(ピース)を送信可能化したことについて少なくとも過失があると認めるのが相当である。
(ウ) 原告らは,送信可能化権侵害の主張に関し,ユーザー間における本件著作物に係るファイルの一部(ピース)の授受を中継した可能性やダウンロードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止した可能性があり,原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することはできないと主張する。
 しかし,BitTorrentにおいて,ユーザーがダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれることは,前記判示のとおりであり,原告X1らがこれを中継したにすぎないということはできず,また,本件各ファイルのダウンロードの開始直後にダウンロードが停止したことをうかがわせる証拠もない。
(エ) 原告らは,シーダーとして本件著作物の動画ファイルの配布を行ったものではなく,原告X6や原告X10の共有比に照らしても,被告の主張するダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したということはできないので,民法719条1項前段を適用する前提を欠くと主張する。
 しかしながら,そもそも,民法719条1項前段は,個々の行為者が結果の一部しか惹起していない場合であっても,個々の行為を全体としてみた場合に一つの加害行為が存在していると評価される場合に,個々の行為者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定であるから,仮に個々の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく,結果に対する寄与が少なかったとしても,そのことは,原告X1らの共同不法行為責任を否定する事情にはならないというべきである。
エ 以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告X1らが本件各ファイルをアップロード可能な状態に置いた行為は,本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害することになる。

上記のとおり,BitTorrent(ビットトレント)を通じて著作物をダウンロードした原告のうち9名については,共同不法行為によって被告に対する著作権(送信可能化権)を侵害したものと認定されています。

侵害された権利

不法行為(民法709条)・共同不法行為(民法719条1項)が成立するためには,「権利または法律上保護される利益」が存在しなければなりません。

本判決によると,侵害された権利は,被告の著作権(送信可能化権)とされています。

被告は,複製権や頒布権の侵害も主張していますが,本判決では,侵害された権利は送信可能化権とされており,複製権や頒布権の侵害については判断されていません。

権利侵害行為

不法行為(民法709条)・共同不法行為(民法719条1項)が成立するためには,権利の侵害行為が存在しなければなりません。

前記のとおり,ビットトレントは,特定のファイルを細分化し,この細分化されたファイルのピースをビットトレントのネットワーク上で各ユーザーが相互に共有・授受することによって,完全なファイルを取得する仕組みになっています。

そのために,ユーザーが目的のファイルの一部をダウンロードすると,それを他のユーザーと共有するため,そのファイルがアップロード可能な状態に置かれることになります。

本判決は,このようなビットトレントの仕組みからして,以下のとおり認定・評価しています。

  • 原告ら9名は,著作物ファイルをダウンロードしたことにより,同時にそのファイルをアップロード可能な状態にした。
  • 原告ら9名がアップロード可能な状態にしたのはピースにすぎなかったとしても,他のユーザーがアップロード可能な状態にしたピースとあいまって,原告ら自身や原告ら以外のユーザーが完全な著作物ファイルを取得することを可能にした。
  • 原告ら9名は,上記のようなビットトレントの仕組みを認識・理解しまたは容易に認識・理解し得たのに認識・理解しないまま,これを利用した。

この認定をした上で,原告ら9名は,他のユーザーと共同して,本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価しました。

そして,結論として,原告ら9名は,他のユーザーとの共同不法行為により,被告(著作権者)の送信可能化権を侵害したものと判断しています。

本判決によると,侵害行為は,著作物ファイルをダウンロードしたことにより,同時にそのファイルをアップロード可能な状態にした行為です。

アップロードされたファイルがピースに過ぎなかった場合でも,ビットトレントの仕組みからみて,完全なファイルを送信可能化したと評価できるため,著作権侵害行為に該当することになります。

ただし,同じファイルのピースを相互に共有・授受しあっている他のユーザーが存在していなければ,ビットトレントで完全なファイルを送信可能化することはできません。

そのため,単一のピースのアップロード行為ではなく,他のユーザーとの共同の侵害行為によって,著作権を侵害したものと判断されています。

故意または過失

不法行為(民法709条)・共同不法行為(民法719条1項)が成立するためには,加害者に権利侵害についての「故意または過失」があることが必要です。

この点について,原告(ユーザー)らは,自らがファイルをアップロード可能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘をしています。

実際,BitTorrent(ビットトレント)で動画を視聴する際,ダウンロードだけでなくアップロード可能な状態になっているとまで認識していない人も少なくないと思われます。

もっとも,本判決は,一定の手順を踏んでソフト等を取得している以上,ビットトレントの特徴であるアップロードがされることを認識していない(故意がない)とは考え難いとしています。

また,仮に認識していなかった(故意がなかった)としても,そもそも著作権者から正当に取得する方法でないことは当然に認識できるはずであり,違法行為をしないよう慎重になるべきであるところ,雑誌やインターネットでビットトレントの仕組みを容易に知ることができるから,それをせずに送信可能化したことには,少なくとも過失があると判示しています。

この判断からすると,ビットトレントの仕組みを知らなかったので故意・過失がなく,不法行為は成立しない,というユーザー側の主張は通りにくいと言えるでしょう。

共同不法行為性

BitTorrent(ビットトレント)によって完全な著作物をダウンロードするためには,複数のユーザーのアップロード可能化行為が存在することが必要になってきます。

そのため,本件では,各原告と他のユーザーとの共同不法行為によって著作権(送信可能化権)を侵害したものと認定されています。

ここでいう他のユーザーとは,本件の当事者に限りません。裁判に参加していない人も含めて,ビットトレントを利用して同じファイルを分割共有していたすべてのユーザーを指しています。

この点について,原告ら(ユーザー)は,シーダーとしてファイルを配布したものでなく,共有比からしても,ダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したものとはいえないとの主張をしています。

もっとも,共同不法行為(民法719条1項前段)とは,個々の行為者が結果の一部しか惹起していない場合であっても,個々の行為を全体としてみた場合に1つの加害行為が存在していると評価される場合に,個々の行為者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定です。

そこで,本判決は,仮に個々の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく,結果に対する寄与が少なかったとしても,そのことは,共同不法行為責任を否定する事情にはならないとして,原告らの上記反論を退けています。

したがって,アップロードしたファイルが少なく共有比率が小さかったとしても,いったんBitTorrentを利用してダウンロード・アップロードをしてしまうと,共同不法行為責任を負うことになるということです。

「共同不法行為に基づく損害の範囲」に関する認定

前記のとおり,原告ら(うち9名)には,共同不法行為により被告の著作権侵害を侵害したものと認定されています。この9名の共同不法行為者は,被告に対して損害賠償をしなければなりません。

問題は,賠償しなければならない損害の範囲はどこまでなのかという点です。

損害の範囲に関する認定

原告(ユーザー)ら賠償すべき損害の範囲については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書16ページ,原審判決書24ページ)。

 被告は,本件著作物に係る著作権侵害は,本件各ファイルの最初のアップロード以降継続しており,社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることなどを理由として,原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害も含め,令和2年4月2日当時のダウンロード回数について,原告らは賠償義務を負う旨主張する。
 しかしながら,民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても,自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な状態に置く前に他の参加者が行い,既に完了しているダウンロード行為については、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能な状態に置いた行為との因果関係が認められず、そのようなダウンロード行為についてまで一審原告X1らが責任を負うと解すべき根拠は存在しないから、被告の上記主張は採用することができない。
 また,被告は,BitTorrentにアップロードされたファイルは,サーバからの削除という概念がないため,永遠に違法なダウンロードが可能であるとして,現在に至るまで損害は拡大している旨主張する。
 しかし,前記前提事実(3)ウのとおり,BitTorrentは,クライアントソフトを起動していなければアップロードは行われないほか,BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば,以後,当該ファイルがアップロードされることはないものと認められる。
 そうすると,原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続していると解すべきであり,その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生じた損害については,原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。他方,端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には,原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。

損害の範囲について,被告(著作者・制作会社側)は,以下の主張をしています。

  • 各ファイルの最初のアップロード以降著作権侵害が継続していることなどから,原告らも,BitTorrent(ビットトレント)を利用する以前に生じた損害も含めて賠償責任を負うべきである。
  • ビットトレントによりアップロードされたファイルはサーバーからの削除という概念がないので,永遠にダウンロード可能であり,現在まで損害が拡大している。

しかし,本判決は,被告の主張を退けて,以下のように判断しています。

  • 原告らがビットトレントを通じて自らファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り,不法行為が継続していると解すべきであり,その間に行われたファイルのダウンロードにより生じた損害については,原告らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損害に当たる。
  • 端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして,ビットトレントを通じてファイルの送受信ができなくなった場合には,原告らがそれ以降に行われたファイルのダウンロード行為について責任を負うことはない。

つまり,賠償しなければならない損害は,ビットトレントによりファイルをアップロードをして送信可能化した時からビットトレントを通じたファイルの送受信ができなくなった時(アップロードがされなくなった時)までの間に発生したものに限られるということです。

「アップロードの始期」の認定

前記のとおり,原告らが賠償責任を負う損害は,アップロードにより送信可能化した時からファイル送受信ができなくなった時までの間に生じたものに限られます。

原告ら(ユーザー)のアップロードの始期をいつにするかの認定については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書16ページ,原審判決書25ページ)。

ア 以上を前提に検討するに,証拠(甲6)によれば,原告X6については,遅くとも平成30年6月4日までには本件ファイル2をアップロード可能な状態に置いていたことが認められる。
イ 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X7,原告X8,原告X9及び原告X10については,BitTorrentを通じて本件各ファイルのダウンロードを開始した時期は明らかではないものの,証拠(乙11、乙13の1~3・6~8)>によれば,遅くとも,それぞれ次の各年月日において本件各ファイルをアップロード可能な状態に置いていたことが認められる。
(ア) 原告X1 平成30年6月12日
(イ) 原告X2 平成30年6月4日
(ウ) 原告X3 平成30年6月2日
(エ) 原告X4 平成30年6月4日
(オ) 原告X7 平成30年6月12日
(カ) 原告X8 平成30年6月13日
(キ) 原告X9 平成30年6月2日
(ク) 原告X10 平成30年6月9日

「アップロードの終期」の認定

前記のとおり,原告らが賠償責任を負う損害は,アップロードにより送信可能化した時からファイル送受信ができなくなった時までの間に生じたものに限られます。

原告ら(ユーザー)のアップロードの終期をいつにするかの認定については,知財高裁によって全部分変更されています。以下は,高裁による認定です(控訴審判決書16ページ)。

 証拠(甲15、21、乙13の1~3・5~8)によると、一審原告X1は、平成30年9月8日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X3は、同月4日頃にプロバイダからの意見照会書を受領した後はBitTorrentのクライアントソフトを起動していないこと、一審原告X4は、同年10月11日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X6は、同月19日頃にプロバイダからの意見照会書を受領した後はBitTorrentのクライアントソフトを起動していないこと、一審原告X7は、同年9月15日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X8は、同月5日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X9は、同月15日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X10は、同月13日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したことが認められ、また、証拠(甲20の1、乙13の2)及び弁論の全趣旨によると、一審原告X2は、同年10月24日頃にプロバイダからの意見照会書が届くまでにBitTorrentのクライアントソフトを削除したことが認められる。
 そうすると、一審原告X1らは、別紙損害額一覧表の「終期」欄記載の日をもってBitTorrentの利用を終了し、それより後は、本件各ファイルにつき送信可能な状態にしたことはないものと認めるのが相当であるから、一審原告X1らは、それぞれ、別紙「損害額一覧表」の「期間」欄記載の期間中に、自己以外のユーザーがBitTorrentを利用して本件各ファイルをダウンロードしたことにより生じた損害の限度で、賠償義務を負う。

原審判決では,それぞれの原告が,代理人(弁護士)に相談をした日をアップロードの終期として認定していましたが,高裁により,上記のとおり変更されています。

「ダウンロード数」の認定

原告ら(ユーザー)のアップロードの始期をいつにするかの認定については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書17ページ,原審判決書27ページ)。

 本件全証拠によっても,上記各期間中に本件各ファイルがダウンロードされた正確な回数は明らかではない。他方で,証拠(乙8~10、14)によれば,令和元年10月1日から令和3年5月18日までの596日間において,本件ファイル1については501,本件ファイル2については232,本件ファイル3については910,それぞれダウンロード数が増加していることが認められるところ,各原告につき,同期間の本件各ファイルのダウンロード数の増加率に,前記(2)・(3)において認定したダウンロードの始期から終期までの日数(別紙「損害額一覧表」の「日数」欄記載のとおり)を乗じる方法によりダウンロード数を算定するのが相当である。
 この計算方法に基づき算定されたダウンロード数は,別紙「損害額一覧表」の「期間中のダウンロード数」欄記載のとおりである。

アップロードの始期から終期までの期間内に,アップロードされた著作物の動画ファイルがダウンロードされた正確な回数は,不明であると認定されています。

そこで,本判決では,以下の方式によって,ダウンロード数を推定で算定しています。

【596日(令和元年10月1日(被告から原告らに対して損害賠償の通知がされた日)から令和3年5月18日までの間におけるダウンロード数の増加率 × アップロードの始期から終期までの間における日数】

「基礎とすべき販売価格」の認定

被告が被った損害を算定するためには,後述のとおり,著作物であるアダルト動画の販売価格がいくらなのかが関わってきます。

この損害額算定の基礎となる動画の販売価格の認定については,原審の認定を維持しつつ,一部高裁によって変更されています。以下は,原審判決から引用しつつ,高裁変更部分を青字にしています。(控訴審判決書17ページ,原審判決書27ページ)。

ア 原告X1らが本件各ファイルをBitTorrentにアップロード可能な状態に置いたことにより,BitTorrentのユーザーにおいて,本件著作物を購入することなく,無料でダウンロードすることが可能となったことが認められる。これにより,被告は,本件各ファイルが1回ダウンロードされるごとに,本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売する機会を失ったということができるから,本件著作物ダウンロード及びストリーミング形式の販売価格(通常版980円,HD版1270円)を基礎に損害を算定するのが相当である。
 そして,被告は,DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロード・ストリーミング販売を行っているところ,被告の売上げは上記の販売価格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨),本件各ファイルが1回ダウンロードされる都度,被告は,通常版につき372円(=980×0.38),HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったものということができる。
イ 本件ファイル3は通常版の動画ファイルのピースであるのに対し,本件ファイル1及び2はHD版の動画ファイルのピースであることが認められるので(弁論の全趣旨),別紙「損害額一覧表」の「価格」欄記載のとおり,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X6,原告X7及び原告X8については482円,原告X9及び原告X10については372円を基礎として,損害額を計算することが相当である。
ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や,BitTorrentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指摘も,前記認定を左右するものということはできない。

あるユーザーがBitTorrent(ビットトレント)を利用して動画ファイルをアップロード可能な状態に置くと,他のユーザーは,その動画を購入せずに無料でダウンロードすることができるようになります。

そうすると,著作者である制作会社等は,1回無料ダウンロードされるたびに1回ダウンロード・ストリーミング販売して利益を得る機会を失うことになります。逸失利益を生じるということです。

そこで,本判決は,逸失利益を算定する基礎となる販売価格を,DVD等の販売価格ではなく,ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格にすべきであると判示しています。

また,損害となるべき逸失利益は,被告(著作者・制作会社)が得られたはずの利益ですから,原告ら(ユーザー)による送信可能化がなかったとしても得られなかった利益までは含まれません。

そのため,ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格に,被告がダウンロード・ストリーミング販売によって得られた利益率(本件では38パーセント)を乗じた金額が,損害(逸失利益)額となると判示しました。

なお,本件では,アダルト動画に通常版とHD版が存在しているため,それぞれについて基礎となる販売価格が異なると認定されています。

原告らの賠償すべき損害賠償額の認定

本判決では,損害(逸失利益)額を,以下の算式で算出しています。

【ダウンロード・ストリーミング形式の販売価格 × 被告がダウンロード・ストリーミング販売によって得られた利益率 × アップロードの始期からアップロードの終期までの間において推定されるダウンロード回数】

原告ら(ユーザー)が負う損害賠償額は,本判決別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄に記載されています。1万6000円から9万4000円ほどの損害賠償額とされています。

「減免責の可否」に関する認定

原告らは,共同不法行為の要件である関連共同性が希薄であるため,損害賠償額は大幅に減額または免除されるべきであるとの主張をしていますが,本判決(及び原審判決)はその主張を退けています。

控訴審における当事者の主張に対する判断

控訴審においては,原告・被告から新たな主張が追加されています。以下は,その主張に対する控訴審の判断です。

「著作権侵害の有無」についての主張に対する判断

ア 一審原告X5及び一審原告X11について著作権侵害行為があったと認めるに足りる証拠がないことは前記1で訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1(1)ウのとおりである。
イ 一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)は、同一審原告らが本件著作物をアップロードしたことの立証に欠けると主張するが、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(4)のとおり、一審被告は、BitTorrentを利用して本件著作物をアップロード及びダウンロードしている者のIPアドレスを特定し、プロバイダから、上記IPアドレスに対応する契約者の氏名及び住所の開示を受けていることが認められ、証拠(乙13の2・3・6・7)によると、プロバイダの回答書にIPアドレス並びに一審原告X2、一審原告X4、一審原告X3、A、一審原告X7、一審原告X9の氏名及び住所の記載があり、これら一審原告らの氏名及び住所の開示を受ける過程において、IPアドレスの混同がないことが認められる。なお、Aとの記載が、一審原告X8の行為に係るものであることについては当事者間に争いがない。また、一審原告X1の氏名及び住所が記載された株式会社TOKAIコミュニケーションズからの通知書(乙13の1)には、IPアドレスの記載はないものの、「添付ファイル「接続記録リスト」 No.49~58」との記載があり、同記載は、一審被告作成の「調査結果一覧(株式会社TOKAIコミュニケーションズ)」と題する書面(乙11の1)の49~58行目に対応するものと推認され、乙11の1の記載からIPアドレスの特定ができることから、IPアドレスの混同がないことが認められる。そうすると、前記(1)のとおり立証がされていないと認められる一審原告X5及び一審原告X11を除き、一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)について、本件著作物をアップロードしたことについての立証がされていると認めるのが相当である。

前記のとおり,原告のうち2名(X5,X11)については,著作権侵害行為は認められていません。また,上記判示によると,X6,X10は著作権侵害行為があったことを認めている(争っていない)ようです。

他方,残り7名の原告は,著作物であるアダルト動画をアップロードしたことの立証が不十分であるとして争っています。これに対し,控訴審(知財高裁)は,立証がされているとして上記主張を退けています。

本判決によると,アップロードの立証については,以下の証拠が重要視されています。

  • 著作権侵害システム(本判決当事者の主張によると,Torrent Monitoring System。)によってファイル送受信を行ったIPアドレスを特定したことの結果を表示する証拠書類等
  • 上記IPアドレスに基づいてなされたプロバイダに対する発信者情報開示請求書
  • プロバイダからの発信者情報に関する回答書・通知書・調査結果

これらの証拠によって送受信されたファイル,それを行ったIPアドレス,同アドレスに対応する発信者情報が立証され,ファイルを送受信した人が特定される必要があります。

また,著作物であるファイルを送受信した者とは他のIPアドレスである可能性もあるため,IPアドレスの混同が無いかどうかを立証できるのかも重要視されています。

「共同不法行為性」についての主張に対する判断

ア 本件で、一審原告X1らは、本件各ファイルを、BitTorrentを利用して送信可能な状態におくことで、一審被告の著作権を侵害した。ところで、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2(3)のとおり、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになるところ、後掲の証拠によると、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピアは短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源の役割を担うものとされるが、一審原告X1らは、常にBitTorrentを利用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていたと考えられること(甲12、15、21)、あるトラッカーが、特定の時点で把握しているリーチャーとシーダーの数は0~5件程度と、特定時点における特定のファイルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされているものではないこと(乙2~4、8~10)、BitTorrentを利用したアップロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイルの容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8.8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平均0~17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアからピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲5、6、乙2~4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、BitTorrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1~3の一つ(以下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorrentのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能化していた相当程度の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBitTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏まえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があると認めるのも不合理とはいえない。
 そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1~3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1~3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたということができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。
 なお、控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告X1らが送信可能化した始期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当である旨主張するが、原判決は、当該期間のダウンロード数をもってひとまとめの損害が生じたと認定したものではなく、1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で、当該期間にダウンロードされた本件各ファイルの数を推定して、推定したダウンロード数に応じた損害額を算定しているのであって、この手法は相当である。
イ 控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告らがBitTorrentの仕組みを十分認識・理解していたと認定したことについて事実誤認であると主張するところ、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1(2)のとおり、控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していることについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたものと認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があると認めるのが相当である。
 そうすると、控訴人(一審原告)らが、本件著作物の送信可能化に関し、不法行為責任を負うとした原判決の判断は相当である。

本判決は,まず以下の事実を認定しています。

  • 原告らは,常にBitTorrent(ビットトレント)を利用していたわけではないので,安定したファイル供給源ではなく,一時的なファイル供給源の役割を担っていたこと
  • 特定時点における特定のファイルに着目した場合,必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされているものではないこと
  • ダウンロードに当たっては,相当程度の時間をかけて,相当程度の数のピアからピースを取得することで,1つのファイルを完成させていると推認されること

これらの事情からして,本件被告の損害は,あるユーザーが著作物ファイルをダウンロードしている期間にビットトレントでファイルを送信可能化していた相当程度の数のユーザーが存在することにより達成されていると判断しました。

また,このダウンロードの期間中に,原告らが,対象ファイルを有する端末を用いてビットトレントのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あるとしました。

そして,これらを踏まえて,対象ファイルを送信可能化していた行為と原告らが著作物のファイルをダウンロードした日からビットトレントの利用を停止した日までの間におけるファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があると認めるのも不合理とはいえないと判示しています。

不法行為・共同不法行為が成立するためには,(共同の)侵害行為と損害との間に相当因果関係があることが必要となりますが,上記は,その相当因果関係があることについて判断しているのです。

その上で,結論として,原告らは、ビットトレントを利用して本件各ファイルをアップロードした他の原告ら又は氏名不詳者らと動画ファイルごとに共同して,ビットトレントのユーザーに動画ファイルをダウンロードさせることで被告に損害を生じさせたということができるから,原告らが動画ファイルを送信可能化したことについて,同時期に同一の動画ファイルを送信可能化していた他の原告らまたは氏名不詳者らと連帯して,被告の損害を賠償する責任を負うと判示しました。

これに関して,原告らは,原審が送信可能化した始期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当であると主張しています。

しかし,知財高裁は,原審は,1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で,ダウンロード数を推定して,それに応じた損害額を算定しているとして,上記主張を退けています。

また,原告らは,原告らがビットトレントの仕組みを十分認識・理解していたと認定したことは事実誤認であると主張しています。

しかし,知財高裁は,前記のとおり,認識・理解していたかまたは容易に認識し得たのに理解しないでいたから,原告らには少なくとも過失があると認められるとして,上記主張も退けています。

「共同不法行為に基づく損害の範囲」についての主張に対する判断

ア 一審被告は、本件各ファイルが最初にBitTorrentにアップロードされて以降の権利侵害の全てについて、一審原告らが責任を負う旨主張するが、一審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrentの利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないのは明らかである。また、本件各ファイルの送信可能化による損害は、1ダウンロードごとに発生すると考えられるところ、一審原告らがBitTorrentの利用をしていない時期におけるダウンロードについてまで、一審原告らの行為と因果関係があるなどということはできない。そうすると、一審原告らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前及びBitTorrentの利用を終了した後については、本件著作物の権利侵害について責任を負わないというべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 一審原告X1らによる本件各ファイルのアップロードの終期について、別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日(プロバイダからの意見照会を受けた日)と認定できるのは、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」2(3)記載のとおりである。これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたことで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、BitTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自然な点はない。
ウ 一審原告らは、BitTorrentの利用者が、ファイルのアップロードを24時間継続することはまずないことや、シーダーやピアが数百以上散在していることなどを踏まえ、本件の損害額については、例えば原判決の認定する額の100分の1などとして算定すべきと主張する。しかしながら、前記(1)及び(2)に判示したとおり、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任を負うと認めることが相当である。また、BitTorrentの仕組みに照らすと、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除するか、BitTorrentの利用を停止するまでの間は、一審原告X1らの端末にダウンロード済みの本件各ファイルが送信可能な状態にあったのであるから、一審原告X1らが本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除したこと又はBitTorrentの利用を停止したことが認められる時点までは、一審原告X1らの不法行為は継続していたと認めるのが相当であり、本件では、一審原告X1らが、別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日よりも前の特定の日に、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除したことを認めるに足りる証拠はない一方で、一審原告X1らが、同別紙の「終期」に記載の日より後はBitTorrentの利用をしていないことが認められるから、同日までの間は、一審原告X1らは、本件各ファイルの送信可能化による不法行為を継続していたと推認することが相当である。
 ところで、一審原告らは、正確なダウンロード数についての立証がない旨指摘するが、正確なダウンロード数は不明であるものの、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化していた期間におけるダウンロード数は、令和元年10月1日から令和3年5月18日までの間にダウンロードされた数から、別紙「損害額一覧表」の「⑤期間中のダウンロード数」のとおりに推計することができるから、本件においては、当該ダウンロード数の限度で立証されているというべきである。

「減免責の可否」「損害の填補」についての主張に対する判断

(4) 争点2-2(減免責の可否)について
 引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」3記載のとおりである。
(5) 争点2-3(損害の填補)について
 控訴人(一審原告)らは、一審被告が一審原告ら以外の者との間で示談をして弁済を受けているから一審原告らの損害賠償債務は消滅した旨主張するが、一審原告ら以外の者が誰であるのか、また、当該第三者がいかなる行為に対するものとして、幾らの賠償金の支払をしたのかについては具体的な主張がなく、また証拠もない。
 そうすると、控訴人(一審原告)らの上記主張は採用できない。

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